3-9 やはり生産チートは素晴らしいですね
現在学園に戻り自室で寛いでいる。もうすぐ夕飯なのでナナの部屋に向かうのだが、ちょっとお疲れ気味だ。
色々あっちこっち回って、肉体的に疲れているのもあるが、精神的に疲れている。
ナビーに思念体のボディーと五感を与えたのだが、はしゃぎっぷりが半端ない。呼んでもいないのに、時々網膜上に現れてちょこまか走り回って手を振ってくるのだ。その仕草はめっちゃ可愛いのだが、正直に言えばちょっと目障りだ。ぶっちゃけウザい。
網膜上ではナビーは身長3cmほどしかなく、目視的には5mほど先に半透明でちょろちょろ走りまわっている。羽の無い妖精が空中を飛んでいるようにも見える。不思議な感覚だしピントも合わせずらい。ちょこちょこと視界内を無秩序に動くからどうしてもそっちに視線がいって気が散って仕方がない。
ナビーの活動範囲は亜空間倉庫内とタブレット上だけだが、自由にできる体をもらえたのがよほど嬉しいのだろう。俺が眠ってる間は退屈していたそうだし、ちょっとウザいけど暫く大目に見てあげるつもりだ。
ナビーは特に五感をもらえたのを感謝しているようだ。五感とは、視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚のことだ。視覚と聴覚はユグドラシルのシステム経由で認識していたようだが、嗅覚・触覚・味覚は楽しみを得るのにやはりあった方が良いだろう。特に味覚は大事な娯楽の1つだ。食べ歩きを趣味にしている人もいるくらいだし、楽しみがないのは可哀想だよね。
本来ナビーに食事は必要ない。スキルであるナビーの動力源は俺のMPで賄っている。食べる必要はないし、食べても何の栄養も吸収しないままに塵処理工房へ転送する仕様になっている。でも、嗜好品として与えてあげるのは良い事ではないだろうか。俺のエゴなのは分かってるのだが、喜ぶ姿は見ていてこちらも気分がいい。
『ナビー、あまり網膜上をチョロチョロされると画面酔いみたいになって目が回るんだけど……』
『……ごめんなさい、マスター。凄く嬉しくて勝手に出てきちゃいました。それと、報告があります。シャンプーとコンディショナーが完成しました。ボディーソープももうすぐ完成です。原料はほぼ同じでしたのでトリートメントやフェイス用洗顔料も製作中です。あと、化粧水と乳液も作っています』
『コラ! いくらなんでも頼んでいない物を勝手に作ったらダメだろ!』
『……でも、女性には喜ばれると思いますよ。フィリアやサリエが喜ぶ顔を見たくはないですか? 病気で肌が荒れているセシアやファリエル、ちょっとお肌の曲がり角のマリアも喜びますよ?』
『ナビーの暇つぶしに、色々作って遊びたい言い訳にしか聞こえないが……確かに女性陣が喜びそうだな。う~ん、そうだ! ナビー、それらに回復剤を混ぜてみてくれないか? 混ぜるのはほんの少しでいい』
『……それはやってみる価値がありそうですね。混ぜる回復剤の等級はどうしますか?』
『そうだな、化粧水には初級回復剤を、乳液には中級回復剤を試しに混ぜてみてくれ。比率は50:1くらいでいいかな?』
『……試作ですので多くないですか? 最初は100:1ぐらいでよいのではないでしょうか?』
『毎日使うものだし、あまり効果が強すぎて副作用が出ても怖いから、薄い位の方がいいのか? じゃあとりあえず100:1の配合で頼む。あ! 同じ感じで毛生え薬とかできないかな? シャンプーやコンディショナー等の他の製品にも入れておこうか?』
『……毛生え薬ですか? 上級回復剤を頭に振りかける人がたまにいますが、毛が生えたという人はいないので、自然と薄くなった禿は部位欠損と同じ扱いなのだと思われます』
『俺の記憶には噂レベルの物しかないんだけど、実際に部位欠損を治せる薬はあるか?』
『……有ります。ですがダンジョンからしか現在は獲得できないですね』
『作製はできないのか、残念だ』
『……いえ、成分が分からないので皆作製できないだけで、ユグドラシルから情報を得たナビーなら作製可能です! ( ̄^ ̄) エッヘン!』
『網膜上に急にドアップでドヤ顔すんじゃない! びっくりするだろうが!』
なんか思念体を与えたのをちょっと後悔してきた。
『……ごめんなさい! つい調子にに乗っちゃいました! ナビーから体も五感も取り上げないでくださいね』
『そんなことは絶対しないから安心しろ。俺の内心読んでいいから確認してみろ』
『……あ! はい、頑張ります! 嬉しいです』
『俺の内心読んで安心したか? 取り上げる気なんか全然ないだろ?』
『……はい! マスターは優しいです!』
俺はナビーから思念体や五感や感情を取り上げる気は全くない。むしろ俺がこの世界で死ぬまで付き合ってもらうつもりでいる。ナビー先生は俺にとってはドラえモン的存在なのだ。困った時の助けてドラえモン! なのだ。
『で、部位欠損を治せる回復剤の材料は何だ?』
『……その回復剤はエリクシャー、エリクシール、エリクシア、イリクサ、エリクシル剤、エリキシル剤と国や地方によって呼び方や呼称が違います。でも実は同じものです。主にダンジョンの下層ボスから極稀にドロップする超レアアイテムの1つとして定義されています。ですが、魔力草の根・聖水・月光草・肝(竜肝・人魚の肝・聖獣の肝・神獣の肝のどれか1つ)があれば作製可能です。月光草と各種肝が獲得困難なので今現在そのレシピは誰も記憶に留めていません。長寿のハイエルフの長老数名が記憶にある程度でしょうか』
『ドラゴンはともかく、聖獣や神獣は狩っちゃダメだろ。人魚は実在するのか?』
『……居ますが過去から現在に至るまで乱獲され、竜より個体数が少なく、絶滅に瀕しています』
『肝がネックだな。薬の為に殺すのもアレだしね』
『……意外と竜は沢山いますよ。地竜・飛竜・水竜、どれも人が入って行けない未開の地が生息場所なので、あまり狩られることもなく繁殖も順調です。寿命も長いので古竜にもなると人語を話して高い知能を持つ個体もいますね。偶に狩られるのは、好奇心旺盛な若い竜が村や町の近くまでやってきて人を食べてしまい、その味を覚えて居ついてしまったようなものが、高位の冒険者や軍に狩られるのです。まぁ、今のマスターでは、倒す手段がないので竜はまだ無理ですね』
『今の俺じゃ倒せない?』
『……はい。竜の鱗は物理も魔法耐性も高いので最低でも上級魔法でないとダメージが入りませんね』
『じゃあ、エリクサーは当分先の話だね。上級魔法を習得できるまでに、武器工房で良い武器の開発も進めておけばいいし、防具も良い物を装備したいね』
『……そのことでご相談があります。思念体の人形をもっと増やしたいのですが、宜しいでしょうか?』
『ん? 今人形は工房に何体いるんだ?』
『……20体ですね。全然足りません。機械工房にもっと人手がほしいです。開発には人手が要ります』
『でも人形の動力は俺の魔力だろ? 増えすぎると俺の魔力が足らなくなったりしないか?』
『……魔力の補充は1日1回で良いので、補填の更新は深夜の1:00更新予定です。使った分は寝ている間に回復しますので、起きる頃にはMPは全回復しています。野外とかに出て野営中の場合などは深夜に魔獣が襲ってくる可能性もあるので、その間は工房を必要以上に稼働させなければよいかと考えます』
『問題ないなら、ナビーの裁量で人形の数は増やしていいよ』
『……はい! ありがとうございます!』
うわ~むっちゃ嬉しそうな声で返事してきたけど、ちょっと不安になってきた。
夕飯も終え、いよいよサリエとお楽しみの入浴タイムだ!
「サリエ、今日はちょっと試験的に開発した液体石鹸を使ってみたいので協力してほしい」
「ん? 液体石鹸? 何それ? リューク様が作ったの?」
「うん。髪と体と顔を別々の液体の石鹸で洗うんだ。綺麗な髪のサリエで試させてほしい」
「ん、分かった。でも、いつそんなもの作ったの?」
「その辺は今はまだ秘密かな。察してほしい……」
「ん、オリジナル……」
「ん! アワアワ~で気持ちいい! それに良い匂い!」
現在サリエにシャンプーをしているのだが、泡立ちが良く、匂いも良い感じだ。
次はコンディショナーだ、これも滑らかに髪に指が入って行く。とても良い仕上がりだ。
フェイス洗顔も毛穴の汚れが取れてクスミも消え、サリエの色の白さが浮き出たようで更に映える。美白なサリエにはこれも相性がいいね。ボディーソープもアワアワでモコモコで綺麗に洗浄できた。
『ナビー! 完璧だ! でかした! これは凄く良い物だ!』
『……マスター、嬉しいです。喜んでもらえるとナビーも作り甲斐があります。明日の朝までには醤油と味噌もできそうですので、楽しみにしてくださいね』
『それは有り難いが、あまり無理して急がなくていいぞ? 人形も適度に休憩させてあげるんだぞ?』
『……思念体に疲労はありません。24時間働けます! リゲイン要らずで頑張れます!』
『お願いだから止めてあげて! 特に急がない場合以外、実労8時間で回してね! ブラック労働はダメだよ!』
今あのCM流したら間違いなく炎上するだろうな……『24時間働けますか?』とかどんなブラック企業だよ! って叩かれるね。
風呂から出てサリエの髪をオリジナル魔法で乾かしているのだが、明らかにいつもと違う。サラサラで指に全くからまない。サリエの頭には天使の輪ができている。とても綺麗な髪だ。乾かしている間に匂い成分も揮発して、完全に乾いた頃には無臭になっている。俺の注文通りだ。
「ん? リューク様、髪がサラサラして指通りも凄く滑らかになった! 何これ! 凄い!」
「サリエ、これも試してみよう。顔に付ける化粧水と乳液だよ。洗顔でなくなってしまった潤いを与えるものだ。保湿成分が入っているので、お肌の肌理も細かくプルプル肌が保てるよ」
翌朝、サリエを見て驚いた! お肌は肌理も細かく真っ白で滑らか、しっとりとした艶があるプルプル肌だ。俺の拙い言語力じゃ言い表せないな。髪も艶があり太陽光があたるとライトグリーンのサリエの髪が煌めいている。勿論天使の輪っかは一晩明けても健在だ。
「サリエ! 顔を見せてみろ!」
恥ずかしそうにだが、前髪を掻き揚げて見せてくれた。
「可愛いぞサリエ! 顔も真っ白でシミひとつないね!」
「ん、鏡を見てびっくりした! 髪も櫛通りが全然違う! これ体感したら、もうベタッとする香油は使えない!」
回復剤を混ぜたシャンプー、コンディショナー、トリートメント、ボディーソープ、洗顔石鹸、化粧水に乳液、全て日本の物より効能が遥かに良い。一晩で見違えるほどに変わっているのだ。回復剤はもう少し薄めて使った方が良いかもしれない。
朝食を食べにナナの所に行ったのだが、サリエを見た瞬間変化に気が付いてサリエに皆が詰め寄ったほどだ。
「サリエちゃん? 昨晩何があったか白状しなさい」
「そうよ、サリエ。昨日と明らかに違うんだから、髪に何かしたのでしょ? 一人占めしないで教えなさいよ」
「「侍女仲間ですから教えてくれますよね?」」
双子は見事にハモッているが、侍女仲間だから教えろとか、イミフだし目が怖いんですけど。
サリエは視線で俺に助けを求めてきた。聞かれた場合皆に言っていいとか、そう言う打ち合わせもしていなかったし仕方がないな。
「僕の作った試作の石鹸を昨晩入浴時にサリエに使ってもらったんだよ」
「リューク様が作ったモノなのですか?」
「兄様! ナナにもそれをください!」
「「リューク様! 私にも少し分けてくださいませ!」」
「うん、勿論皆の分も用意はしているけど、3、4日待ってもらえるかな? 一応俺とサリエで検証試験をやってるんだけど、副作用とかあったらいけないからね。検証試験が終わるまでもう少し待ってね」
「副作用とかの可能性があるのですか?」
「多分無いよ。でも念のためにね」
こういう話をしながら、朝食に出されたサラダに、ナビーが昨晩作ってくれたマヨネーズをかけた。
う~ん! 旨い! お昼は某メーカーのオニオン醤油ドレッシングで食べよう。
ナビーは昨晩俺が寝てる間に、7種類のサラダ用ドレッシングを作ってくれていた。
「兄様? それは何ですの?」
「マヨネーズだよ。サラダに直接使うのは好き嫌いが分かれる味だけど、美味しいよ」
「「「美味しいです!」」」
「ん! 美味しい!」
「ジャガイモを蒸かして、潰してコーンやベーコンとマヨネーズ、塩コショウで味を調えたポテトサラダも美味しいよ。茹で卵を潰して和えてパンに挟んだタマゴサンドとかも美味しいかな。今度作ってあげるね」
どうやらここの女性陣は皆マヨラーだね。掛け過ぎってほど掛けて食べていました。太るよ……。
やはり生産チートは素晴らしいですね!
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