3-83 20階も無難に抜けました

 カカオを採取した後、MAPを見ながらできるだけ他の探索者に会わないように気を付け、下へ降る階段のある地点に向かった。


「リューク様、どうして回り道をしてしているのですか? さっきの獣道を通ればすぐに階下に行く場所に出られるのではないのですか?」


 ルルがそう尋ねてきたが、確かにそのとおり。でも、ちゃんと遠回りしているのには理由はある。


「できるだけ他者に会わないようにしているんだ。大体この子供だけのPTって見るからに変でしょ? しかも手足の欠損した子を背負ってる女の子とか……色々聞かれるのも面倒だし、万が一ルルが聖女だってバレたらそれこそ大騒ぎになっちゃうしね?」


「「「確かに……大騒ぎです」」」


「ごめんなさい。私が我侭言って付いてきちゃったので変に気を使わせてしまいました……」

「まぁ、それはいいんだ。ルルのことも少し知れたからね……聖女ってやはり凄いって思ったよ」


 俺の発言で、ルルはぱぁ~と明るい笑顔になった……うわ~やっぱこの娘可愛い!


 俺に役立つところを見せたくて、最初いろんな武器や魔法を使い、見せ付けるようにアピールしていたのだ。どうあっても俺のPTで、回復職以外としてでも付いて行くという意思表示だろう。恋愛脳で、押しの強い我侭娘と思っていたが、考えを改めることにしよう。



 もうすぐ階段が見えるかってときに、カリーナがルルの背中で身を乗り出すように肩に手を置いて鼻をヒクヒクさせだした。


「カリーナちゃん、どうしたの!? そんなに乗り出したらおんぶしにくいでしょ?」

「あっちから良い匂いがします! あの緑の美味しいやつです!」


『……マスター、どうやらキウイフルーツの匂いを嗅ぎとってしまったみたいですね。でも、残念ながらそこは今、他の探索者が採取中です』


『どういう奴等だ? 頼めば何個か譲ってくれそうな奴か?』

『……どうでしょう? 彼等は依頼任務中のようで、納品期日までに決められた数を収めないといけないので、微妙ですね』



 とりあえず行って聞いてみることにした。



 森を15mほど入っていったところに、大きなキウイの木が横に蔦を伸ばして何本か生えていた。キウイは単体では実をつけない……確か雄木と雌木があったはずだ。実を付けてるのが雌木ってことだね。


「誰だ!? そこで止まれ!」


 警戒中の男に制止された……探索者同士でも油断できないので、この対応は適切といえよう。

 無警戒なPTは長生きできない……探索者の中にも強奪者や強姦魔は一定数いるのだ。


 探索者登録時に犯罪履歴は参照するが、ダンジョンへの出入りはカードを見せて入洞料を払えば誰でも入れるので、結構な数の犯罪者が入っている。


 俺のMAPで黄色表示されている奴らはなんらかの犯罪を犯してる。俺に敵意を向けた時、この黄色は赤色に変わる。このPTは全員白表示……つまり犯罪歴なしの善良な人たちだね。


「あの、子供たちにこのキウイフルーツを何個か譲ってくれませんかね?」

「ん? なんだ、子供ばっかじゃないか、お前らよくここまで降りてこれたな? って怪我したのか!? 腕とか足がないじゃないか!? 大丈夫か!?」


 最初に制止の声を掛けてきた人が慌てて駆けつけてきて、容態を心配そうに見ている。


「これは今回の探索で傷ついたのではないので大丈夫です」

「そうなのか? ならいいが、そんな子をおぶってとか、どういうつもりなんだ? もとより年端も行かない子供だけじゃ危ないぞ! 運よくここまでこれたのかもしれないが、早急に引き返すんだ!」


 う~ん、良い人っぽいけど、勝手にこっちの戦力を見下して、一方的に帰れはないでしょ。


「1人でオークのコロニーを殲滅できるだけの火力はあるのでご心配なく。それよりそのキウイを数個分けて欲しいのです。5つで1000ジェニー払いますが、どうでしょうか?」


「お兄ちゃん! キウイは1個50ジェニーほどだよ! それ払いすぎ!」

「知っているよ。無理を言って分けてもらうんだから、迷惑料が入ってるんだよ」


 このフィールドエリアではいろんな自生フルーツが成っていて、採取しても数日でまた実がなるというダンジョン特有の不思議現象が起こるそうだ。


 雄木、雌木がちゃんとあるのに、受粉とかどうなってるんだろうな? 不思議だ。


 で、この自生フルーツの採取は早い者勝ち。但し、1PTが固定で沸き待ちするのは暗黙のルールとして禁止のようで、一度採取した木からは離れないといけないというダンジョンルールがある。


 現在このキウイの木に成っている実の権利は、目の前のPTにある。勝手に皆が自由気ままにやっていたら、気の荒い冒険者や探索者なんかすぐ殺し合いに発展してしまうので、こういうルールが自然とできあがったのだろう。


「う~ん、分けてあげたいのはやまやまなのだが、結構数的にギリギリなんだよ……足らない場合、依頼失敗として違約金が発生してしまうので、悪いが譲ってあげられない……すまんな」


 ナビーの情報どおりか……仕方がないな。


「カリーナ、そういうことだから、27階のエリアまで我慢してね?」

「ちょっと待て! お前らまだ下の階に行く気か!? 死ぬぞ! 止めておけ!」


「お兄ちゃん!? 下の階に行く気なの? マジで!?」

「ご主人様、キウイはもうイイですので、帰りましょう!」

「ご主人様、これ以上は危険なのです。超あぶないのです! 21階以降は毒持ちが出るのです!」


 カリーナはキウイはもうイイからと慌ててるし、ルディはなんか語調というか口調が変わっている?


『……ルディは本来それが素のしゃべり方です。公爵家のご子息と知って、できるだけ敬語を心がけているようですが、2人とも平民ですのであまり上手くは喋れないようですね』


「毒持ちが出るのは知っているよ。山のように解毒剤も持ってきているので大丈夫だ。それに上級解毒魔法も俺とルルは使えるので何の問題もないよ」


「声からして君は少年だよな? 嬢ちゃんか? まぁ、どっちでもいいけど嘘は駄目だ……いくらなんでも、その歳で上級魔法はないだろう」


 心配してくれるのは良いが、これ以上は時間の無駄だよな……得るものがない上にルルの身バレする可能性が出てくる。


「まぁ、信じようが信じまいが別に構いません。さぁ、無駄な時間は俺にはない、どんどん進むぞ」

「待て! これやるから考え直せ! 無謀に死に行く者を見過ごすと寝覚めが悪い!」


 うわ~、この人マジで良い人だ!


 気になったので、詳細鑑定で覗いてみることにする……。

 フレンツさんか……勝手にフレリス(フレンドリストの略)に入れておこう。

 本来同意の下でしかフレリスには登録できないが、俺の場合は【カスタマイズ】で勝手に書き込めるのだ。


「あなたお名前は? 俺はリューク・B・フォレスト」

「ん? B……公爵家のご子息様! じゃあ、そっちのフード被ってるその子が例の噂の戦闘侍女! 成程……これは失礼しました! 俺、わたくしは探索者のフレンツという者です。これ少ないですが、これで先ほどの暴言を許してくれ。ください」


 キウイを5つ手渡してきた。一人一個だね。

 なにげにサリエの名が有名に……名ではなく【公爵家の戦闘侍女】として知れ渡ってきているのかな?


「足らなくなるのでは?」

「ギリギリ足りるはずです。大丈夫ですので持って行ってください」


「じゃあ、1個だけ頂くよ。もし足らなかったら、こっちも寝覚めが悪いからね。この猫族の子の分さえあればいいから、1個だけ貰っておくね」


「ご主人様……ごめんなさい……」

「カリーナ、このキウイはマタタビ科に属するから、猫科の獣人には抗えないものがあるんだよ」


「そうなのですか!? だからこれほど美味しそうな良い匂いがするのですね……」

「お昼に出してあげるから、それまで我慢するんだよ」


「はい!」

「あ~なんだ……言い難いが、この果物は収穫して直ぐ食べられないんだ。です。大体10日~2週間は食べられるようになるのに掛かってしまうんだ……です」


 それを聞いたカリーナは項垂れてしまった。あまりの項垂れっぷりだったので、そっと近づき耳打ちしてあげる。


「カリーナ、忘れたのかい? 俺には秘密の熟成室があるので、お昼には食べられるからね。内緒だよ」


 俺の耳打ちで、パァ~~と満面の笑顔になった。


 何か言いたげなフレンツさんに礼を言い、質問攻めにされる前にさっさと離れた。





「リューク様……魔獣出ませんね」


 皆も起き出して活動を始めているので、魔獣がいないのだ。


「これだけ探索者がいればね……湧いたと同時に何組かのPTが走って、魔獣の権利を奪い合ってるほどだからね」


「お兄ちゃん、朝一のメロンウィップはラッキーだったね。あれが一番人気の魔獣なんだよ。そんなに強くないうえに、メロンがドロップしたら1個1500ジェニーから3000ジェニーになるし、中には1万とか、もっと下の階からは10万ジェニーのメロンもでるんだって。凄く美味しいそうだけど、どんなのかな?」


 当然貴族の俺と聖女のルルは食べたことがある。リューク君の記憶では、甘くて凄く美味しいというイメージが残っている。


「楽しみだね。行ける所まで下るから手に入ったら食べさせてあげるよ」


「「「ホント!?」」」

「ドロップしたらだけどね」


 どんどん下って、現在20階の階層ボスの部屋前で休憩中だ。

 一組先約が居るようなので、その組が入って抜けたら、ボスが再度湧く前に空き部屋状態時に抜けていくつもりだ。だが、いつまで経っても動く気配がない。こっちに声掛けすることもなく、怪しいPTだ。


 こちらの休憩は終えたので、一声掛けて、行かないのなら先行させてもらう。


「悪いが行かないなら、先に行かせてもらうぞ?」

「ああ、実はそれを待っていた……できるだけ、回復剤は温存したいからな……悪いな。あ~~~、でも子供ばかりのPTにボス戦させるのもなんかな~~~~」


 只のヘタレPTだった……それくらいケチるなら上層階で稼いでろと思うのだが、上層では経験値が少ないので、適正レベルエリアまで行かないことには、種族レベルは上げられない。


『……マスター、ヒーラーのいないPTではこういうものですよ。王都では初級回復剤でも、一本15000ジェニーもしていますからね。前衛3人に使用したら、それだけで45000ジェニーもかかってしまいます。このエリアのボスでは平均2万ジェニーにしかならないので、それでは赤字です。他の強いPTを待って、それを利用したい気も分かります』


 高レベルのPTなら、無傷でこのエリアのボスは倒せる。26~29階のフィールドエリアを拠点にしている組だと、多少の怪我を負うようだ。ヒーラーがいない彼らのPTは回復剤が命綱になるので、できるだけ温存したいのは当然だな。


 相手側のリーダーらしき奴が『あ~~~』とか、『う~~』とか言って悩んでいたが、無視してさっさと進んだ。時間の無駄だからね。



 ちなみに20階のボスはメロンウィップ2体だった。

 当然のように大きなメロンが2個ドロップして、子供たちは大はしゃぎしてた。


 どうも俺の幸運値の影響は凄いようで、狙った欲しいものがドロップしているような気がする。

 良い事なのだが、こう良いモノばっかりドロップすると、アリア臭がしてなにやら落ち着かない。

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