《01-02》

 主計科とは軍において庶務・経理を担当する。

 その仕事は多岐に渡り、武器や糧食の調達管理も含まれる。

 仕事が多い上に、完全な裏方作業なので希望者は多くないのが現状だ。

 

 第十一学区では三クラスが主計科専攻。

 座学中心のカリキュラムで編成されている。

 

「ま、案外なんとかなるかもね」

 

 数秒間の沈黙の後、彼女は表情を緩めた。

 営業用の整った微笑みではない。あどけなさが残った自然な笑顔。

 

「そう言ってもらえると、少し安心します」

「根拠のない勘だけどね。あ、喋ってると遅れちゃうか。十一学区、七番線だから」

 

 道の向こうレンガ模様の駅を指差す。

 

「はい。ありがとうございました。では、また」

「ん、じゃあね」

 

 挨拶を交わして、春乃はトラベラーバックを持ち上げた。が、片手では辛い重さ。

 不恰好に両手でどうにか運べる感じだ。

 

「ほらほら! 頑張れ男の子! 幼馴染が待ってんだろ!」

 

 ふらふらと覚束ない足取りで離れていく背中に、大声でエールを投げた。

 

 

                    ※ ※ ※

 

 

 春乃は荷物を引きずるようにレールロードに乗り込んだ。

 車内は無人。

 進行方向に対し横向きに配置された六人座席の隅に座る。

 

 出発までにはまだ数分の時間があった。

 

 いつもの習慣でポケットに手を入れたところで思い出す。

 

「端末は持ち込み禁止だったんだ」

 

 カード型の多機能端末は、生活の必需品だった。

 各種情報サービスの利用や放送番組の視聴。

 メールに電話はもちろん、キャッシュカード、身分証明書にもなる。

 ゲーム等のエンタテイメント機能も充実していた。

 

「いきなり不便さを実感させられるなんてね」

 

 ここでは多機能端末を含む情報機器の持ち込みは一切不可。

 ナンセンスではあるが、不便な生活を送るのも教育の一環とされているからだ。

 

 苦笑しつつ、鞄から手帳を取り出した。

 事前にメモしておいた目的の駅。更には下車後、学校までの道順も確認しておく。

 

 気分が少し落ち着いたところで、最終ページに移動した。

 そこに貼られているのは一枚の写真。

 以前、送られてきたメールに添付されていたのを、プリントアウトしたものだ。

 

 寮の一室で撮ったのだろう。

 綺麗に整頓された本棚とぬいぐるみの乗ったマルチラックを背景に、三人の少女が並んでいる。

 

 真ん中は切れ長の目をした細面の少女で、容姿端麗を絵に描いたようだった。

 ふわりと広がる色を抜いた髪が大人びた感じを際立て、美少女ではなく美女と表現できるほどだ。

 

 左の少女はお下げ髪の子で、実に子供っぽい顔立ちだ。

 潤んだ大きな瞳。小さく愛らしい鼻。屈託のない純真百パーセントの笑みを浮かべている。

 

 右側の少女は、目尻の上がった大きな目と綺麗な薄桃色の唇が印象的な少女。

 整った顔立ちをしているが、下ろした髪が顔の半分近くを覆っており、どうしても暗い印象を与えてしまう。

 しかも、控えめな笑みと弱々しいピースサインが残念さに拍車を掛けている。

 

 

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