《07-20》

「バカ! 右だ!」

 

 函辺の怒声に反応する。よりも早く脇腹に衝撃が走った。

 直後、身体が跳ね飛ばされる。

 ぐるぐると回る視界に理解が追いつかないまま、地面に叩きつけられた。

 

「ったく、何しに出てきたんだよ」

 

 棍を杖代わりに函辺が立ち上がった。

 肩で息をしつつも、臨戦態勢を整える。

 

 一方の桜木は突き飛ばした手をぼんやり眺めていた。

 時間にして数秒、ようやく合点がいったのか不機嫌そうに口を尖らせる。

 

「ボディアーマーを着込んでるでしょ。それってずるっこだよ」

 

 倒れている萩人をじっとりと睨む。

 

「言いがかりだな」

 

 萩人が身体を起こした。

 

「校則のどこにも、防具を付けちゃいけないって書いてないぜ」

 

 憎まれ口を叩くが、ダメージは大きい。

 足元がふらついている。

 

「痛くないように一発で終わらせてあげるつもりだったのに」

「女と思って手加減してれば調子に乗りやがって。痛い目に遭わせてやらないとな」

 

 ポケットから分厚い手袋を出した。

 掌で青白い電撃がスパークしている。

 護身具としても最適な隠し武器スタングローブ。

 

「そんなのまで持ち出すんだ。ずるっこい!」

 

 桜木の非難に函辺が頷いて同意を示す。

 

「武器を使うのが人間の知恵ってもなんだぜ」

 

 萩人が間合いを詰め、拳を繰り出す。

 

 僅かに身を引いてそれを避ける桜木。

 

「どこまで逃げられるかな」

 

 すぐさま踏み込んで、次々と突きを打ち込む。

 

 触れれば終わりの攻撃を、桜木はやはり紙一重の見切りでかわしていく。

 

「ダメだね。やっぱさ、武器に頼ると攻撃が荒くなるから」

「なんだと! お前!」

 

 嘆息する桜木に萩人が声を荒げる。

 

 直後、またも視界から桜木が消えた。

 

 先ほどの事がある。すぐさま攻撃を中断。

 前後左右。瞬時に視線を走らせるが。

 

「バカ! 上だ!」

 

 桜木は萩人の遥か頭上。

 身体を小さく丸め、くるくると回転させていた。

 

 ふわりとスカートが広り、薄桃色の下着がちらりと見える。

 

 萩人が目を逸らす暇もなかった。

 

「どっこいしょぉ」

 

 気の抜ける掛け声と共に、キックを放ってきたからだ。

 

 凄まじい速度の蹴りに、咄嗟に腕を上げてガード。

 が、その渾身の防御が、いとも簡単に弾き飛ばされた。

 派手に数メートル転がる。

 

 それでも萩人の戦意は衰えない。どうにか立ち上がろうとする。

 

 

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