《07-21》
「まだ戦う気なら、しょうがないね」
桜木が駆け寄り、止めを刺さんと手を振り上げる。
そこに函辺の棍が割り込んできた。
仕方なく桜木が大きく間合いを開ける。
「委員長、邪魔しないでよ」
「そ、そうだ。誰も助けろとは、言ってない」
息も絶え絶えながら、男としてのプライドを主張する。
「安っぽい意地を張っている場合かよ」
しかし、そんな物は軽く踏み潰すのが函辺という人間だ。
悔し気に唇を噛んだ萩人だったが、すぐさま決断する。
「オニハコ、手を貸せ。ピンで当たって勝てる相手じゃない」
「ちっ、『ハルベルデ』と共闘する羽目になるなんてな」
「それはこっちの台詞だ」
油断なく棍を構える函辺の隣に、スタングローブを放電させながら萩人が並ぶ。
「あ、今度は二人掛りなの。ずるいずるいよ」
桜木の不満を、「うるさい!」と声を揃えて切り捨てる。
「ま、いっか。全然余裕だし」
ぼそりと呟くと、ちらりと校舎の方を見た。
「春っちだけ通せって言われてたし」
※ ※ ※
第六校舎最上階。
分厚いドアを乱暴に開けると、まろみは執務室に転がり込んだ。
軍服を着た偽者の方である。
「くそっ! ここまで追い込まれるとは!」
荒い息のまま、苛立たし気に床を踏んだ。
追っ手は迫っているはず。近衛侍女隊では長くは持たない。
最後の砦は桜木だが。
「ダメだ。あのクズは人間的に当てにできん」
酷い言い草だが、ころころと宗旨変えする桜木は、使う側から見ればそんなものだろう。
「まあいい。ここを逃げ切ればさえすれば」
そう言いながら、顎の下に指を入れた。力を込め、ぐっと引っ張る。
ぷちぷちと小さな音を立てて、肉と皮が剥がれていく。
精巧に出来た変装用のマスクだった。
「正体されバレなければ、何度でもやり直せる。問題ない」
人工皮膚でできたまろみの顔を足元に捨てると、カチューシャごとウィッグを外す。
「そう。問題ない。私は何も失ってはいない」
自身に言い聞かせるように繰り返しながら、軍服のボタンを引きちぎって脱いだ。
フリルの付いた純白の下着だけになると、書斎机に駆け寄る。
引き出しの奥に隠してあった袋から、服と制汗スプレーを取り出した。
スプレーを身体中に振り掛け、衣装を着込む。
手櫛で前髪を整えたら、首元に指を押し込んで喉に埋め込まれた変声機を調整。
通常の声に戻した。
これで偽まろみは忽然と消えた事になる。
今日の騒ぎも生徒達の記憶から消してしまえばいい。
だが、その前に一つだけ片付けねばならぬ問題があった。
「草陰 春乃。あいつだけは始末しておかねば」
壁際のチェストを開ける。
万が一に備え置いてあった、大振りのハンマーを手に取った。
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