《04-17》

「いいじゃないか。誰にでも優しく接することができるのは、草陰の長所なんだから」

「それは解っています。解っていますが……」

 

 戻ってきた函辺が持っていたのは、数人分のカレーが炊けるほどの大きな鍋だった。

 

 それを見た凛華の目がぐぐっと大きくなる。通常の五割増し。

 

「その鍋は?」

「お粥だよ」

「何故、そんなに大きな鍋を使ったんですか」

「知らないよ。増えたんだから」

 

 正確な表現なら「知らない」ではなく「しょうがない」だ。

 

「たまにお粥を食べるのは健康にいいって話だよ」

 

 どすんとテーブルの真ん中に。続いて蓋を開ける

 

 凛華の瞳が更に見開かれた。

 ノーマル状態の二倍。かなり驚いている。

 

 中身はおたまを入れるのが躊躇われるほどに満杯。

 

「どうして、こんなにも作ってしまったんですか」

「だから、増えたんだって。でも、お粥って殆ど水分だろ。三人なら余裕で食べれるって」

 

 たっぷりと茶碗に入れて、それぞれの前に置いた。

 

「さあ、食べよう食べよう」

「どうして適当な分量で作るんですか。計画性がなさ過ぎます」

「こういうのも悪くないと思いますよ。頂ききましょう」

「春乃様がそう仰るなら、今回は不問にしましょう。では頂きます」

 

 二人がレンゲで口に運ぶ。

 

「お粥って初めて作ったんだけど、どう?」

「うん。悪くないと思うよ。お米の純粋な味が楽しめるっていうか」

「そうですね。実に純粋な味がします。純粋過ぎるくらいの味が」

 

 要領を得ないコメントに首を捻りながらも、函辺も一口。

 むぐむぐと咀嚼するうちに、その表情が険しくなる。

 

「まずっ。なにこれ?」


 シンプルかつ大胆な感想だ。

 

「全然味がしないしさ」

「小鬼田さん、ちゃんと味見しましたか?」

「するわけないだろ。でも困ったな。草陰、これどうする?」

「どうするって言われても」

「ちゃんと味見をしなさいって以前から忠告していますよね」

「草陰、カレー粉入れてみようか。意外と美味しくなるかも」

「人の話を聞きなさい!」

「あぁもう、うるさいな。料理なんて適当でいいんだよ。適当で」

「まったく……」

 

 色々と言いたい事を、大きな溜息一つに集約した。

 

 

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