《05-07》
「懐かしいな。半年しか経っておらんというのに、随分と昔のような気がする」
「僕も入学式に出たかったよ」
「こうして見ると良いものだが、あまり楽しい物ではなかったぞ。特に学区長の話が余りに退屈でな。しかも駄洒落を三つも織り交ぜるという最低具合だった」
「あはは。それは違う意味で聞いてみたいね」
どうやら入学式の事は覚えているようだ。
相槌を打ちながら、その点を認識する。
チャプターに戻ると、次は新生徒会長就任式を選んだ。
「会長選挙って六月だったよね」
「うむ、余のように一年で会長に立候補する者を考慮し六月になっておる」
丁度、まろみからのメールが途絶えた時期だ。
グラウンドが映った。
教官の号令に生徒達が一斉に敬礼する。
「こうやって自分の映像を見るというのは恥ずかしいな」
春乃の隣でまろみが漏らす。
「余はあまり映りが良くない方だ。過度な期待はいかんぞ。暑くなる季節だし、汗ばんでいたりするしな。それに半年前だ。まだ子供っぽい部分が……」
リボンを指先でくねくねといじりながら、ぶつぶつと呟く。
「ただいまより、新生徒会長による所信表明演説を行う」
威圧的な声がそう告げた。
誰もが敬礼を崩さず壇上に目を向ける。
一人の女生徒がマイクの前に進み出た。
春乃が息を飲んだ。まろみの受けた衝撃はそれ以上だったかも知れない。
唖然とした表情で食い入るように見つめている。
「休んで下さい」
風に揺れる黒髪を押さえながら、優しい声で告げた。
鈴蘭の髪飾りが光を反射する。
「新生徒会長の桔梗 撫子です。以後、よろしゅう頼みます」
穏やかな笑みを浮かべると、優雅に頭を下げた。
「どういうことだ」
まろみが掠れた声を絞り出す。
「どういうことだ。これは一体、どういうことなのだ!」
大声で怒鳴ると、乱暴に床を踏んだ。
「余が! 余こそがこの学区の支配者、生徒会長である菜綱 まろみだ! ここには余の栄光が記されているはずであろうが!」
「落ち着いて! まろみたん!」
春乃の声にまろみがはっと我に返った。
「済まぬ。余としたことが、少々熱くなってしまったようだな」
ふうっと大きく息をついて、体内の温度を外に吐き出す。
「余を陥れようと何者かが仕掛けた物に違いない。そうだ。そう考えるのが自然だ」
半ば自分に言い聞かせるように呟く。
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