《06-15》

 桔梗とは、言うまでもなく複合大企業体『桔梗グループ』を指す。

 

 桔梗グループ本家の一人、桔梗 撫子。

 継承序列二十五番目の彼女は、卒業後グループの末端会社を任せられる予定である。

 その事前学習として人の上に立つ意味と責任を学ぶ必要があった。

 つまり学区の生徒会長となり生徒会を運営するのだ。

 

 その為に、彼女に与えられた駒。

 まずは諜報から身辺警護までこなす特殊親衛隊二十名。

 そして、彼らを束ねるリーダー須々木 萩人。

 彼は撫子と幼少の頃から一緒、まるで姉弟のように育ってきた。

 撫子は萩人に絶対の信頼を置き、萩人も妄信的な忠誠心で仕えている。

 今は主従関係だが、その感情の方向が変わった場合、萩人を桔梗本家に迎える事も考慮されている。

 

 身分を問わず優秀な人材、信頼に足る人材を、貪欲に取り込んでいくのが桔梗なのだ。

 

 更に小鬼田 函辺と御形 凛華。

 二人の両親は桔梗系列の会社に勤めていた。

 撫子と同年齢の二人は、子供の頃から桔梗による英才教育を受けた。

 函辺は武術の凛華は学術の、である。

 もちろん、他にも多くの学友候補が居たが最終的に残ったのは二人だけだった。

 

 彼女達は桔梗に縁のない人間として撫子に近づき、生徒会長となった彼女を友人として支えるのが役目。

 そして学区を卒業後、社会に出た撫子の側近となるシナリオだった。

 

 だが記憶を改竄された二人はまろみ側の人間として、撫子と敵対する立場になってしまった。

 桔梗から見れば、明らかな背信行為だ。

 

「本家にバレたら怒られるよな」

「その程度で済めばいいのですが」

「まあ、あれこれ心配してもしょうがないさ。世の中ってのは」

 

 函辺が立ち上がって、大きく伸びをした。

 

「なるようにしかならないもんだ」

「貴方を見ていると、あれこれ考えるのがバカらしくなってきます」

 

 凛華も腰を上げた。と、真面目な顔を作る。

 

「で、どうするつもりです?」

「まろみ様と草陰のことか?」

「私達は桔梗の一員。これ以上、お二人に関わるべきではないと思います」

「それは正論だな。記憶を取り戻した以上、桔梗を第一に考えるのが筋ってもんだ」

 

 そこで言葉を切った。にっと不敵な笑みを浮かべる。

 

「でも、自分は行くよ。草陰は友人なんだ。見捨てるわけにはいかないさ」

「友人を大切にする。それは素晴らしいことです。でも、助けた後はどうするのです? 桔梗に戻るのであれば、まろみ様と敵対することになります。それならば、偽者の方が」

「そういうことは助けてから考える。まあ、なるようになるだろ」

 

 自信に満ち満ちた顔で、とても適当な発言をする。

 そんな函辺に凛華は呆れ全開だ。

 

「また、いい加減な」

「柔軟思考と言えよな」

 

 表現一つで随分と印象が変わる。それも世界の真理だ。

 

 

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