《05-06》

「几帳面なんだね」

「本に関してだけね。自分の部屋は物凄く散らかってるから。靴下が片方だけなくなったりなんて、もう常識だよ!」

 

 やはり得意気な顔で言い切る。

 

「結衣よ、もう少し女性らしくならんと嫁の貰い手がないぞ」

「あはは。私は本があれば幸せですから!」

 

 そんな会話をしている内に、図書館の最深部に辿り着いた。

 地下に続く階段を降りると、分厚い金属製のドアがあった。

 

「ここ、カードロックになってるんだ。で、カードを持っているのは図書委員長の私だけ」

 

 春乃に説明しながら、カードキーを扉の横にあるリーダーに通してドアを開ける。

 

「では、立ち入り禁止なんで、私はここまでです。中からは自由に出れますけど、帰る時はインターホンで知らせて下さい。迎えに来ますんで」

「うむ、ご苦労だったな」

「ありがとう」

 

 笑顔で手を振る結衣に礼を述べ、二人は部屋に入った。

 

 自動照明が部屋を照らす。

 教室ほどの空間にはスチール棚が、一人が辛うじて通れるほどの間隔で縦横に立っている。

 

 棚に収められているのは、縦三十、横二十センチくらいの金属製のバインダー。

 厚さは十センチほど。

 開けると名刺大の薄い金属プレートが並んでいた。

 ディスクカードと呼ばれる記憶媒体である。

 

 この一枚で映像データを千時間記録できるという優れ物。

 表面には対電磁プロテクト加工がされており、劣化や磁気兵器による攻撃からもデータを護る事ができる。

 

「かなりの数があるね」

「この学区の全歴史を納めておるからな」

 

 バインダーは十五ページ綴り。各ページには二十枚のディスクカード。

 それが棚に隙間なく並んでいる。

 

「とりあえず、今年の春からの記録が見たいんだ」

「年代順に整理されておるようだな。となると」

 

 バインダーに書かれた年代を頼りに進んでいく。

 

「これが今年の分だ」

 

 一冊を選んで、中からカードを取り出す。

 

「再生用の端末はあれだね」

 

 春乃が部屋の奥に置かれていた端末を指差す。

 ディスクカードの読み取り装置に、キーボードが接続されたシンプルな物だ。

 

 カードを差し込むと空間にチャプターメニューが投影された。

 入学式、オリエンテーション、春の遠足など。どれも一般的な物だ。

 

 とりあえず入学式という文字に指先で触れる。

 

 映像が再生された。

 場所は体育館。

 着慣れない制服姿で並ぶ新入生を前に、学区長や各教官の訓示。更に前生徒会長の歓迎の言葉が続く。

 別段、奇妙な部分は見当たらない。

 

 

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