《04-05》

 お弁当は見事な出来だった。かなりの熟練者のはずだ。

 

「難しいけど。あえて問題にするところがヒントだと思うんだ。つまり、想像できない人間が犯人ってことだよね」

「ほう、鋭いことを言うじゃないか」

「そのお弁当を作ったのは、桜木さんでしょ!」

「いや、それはない」

 

 真顔で即答。

 あまりに素っ気無い反応だ。

 

「あいつの料理は私より酷い。カレーすら無理。ハヤシライスが精一杯だ」

「似たようなもんじゃないのかな」

「大違いだぞ。ま、今回は残念賞でブロッコリーをプレゼントだ」

 

 有無を言わさず、春乃の口に押し込む。

 

 歯ごたえを残しながらも、ほっくりとした食感もある。

 最高の茹で具合だ。

 

「正解は凛華だ。あいつ、家事が得意なんだよ。座学も優秀、運動神経もいい。人間性以外は完璧だな」

 

 随分と酷い評価に春乃が微笑む。

 

「あはは。二人は仲良しなんだね」

「まあな。あいつとは幼稚園から一緒、酷い腐れ縁なんだよ。子供の頃のあいつはさ……」

 

 他愛ない話をしている間に、函辺の弁当はあっという間に空になった。

 一方の春乃はカレーパンを食べただけ。

 チョコロールとヤキソバパンが手付かずで残っている。

 

 箸を咥えながら、函辺はパン達に熱い視線を注いでしまう。

 

「ハコベさん、良かったらどうぞ」

「いいのか?」

「ちょっと多めに買ったかなと思ってたんで。それにお弁当を分けてもらったし」

「そうか。じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 と、伸ばしかけた手を止め、

 

「来月、身体測定があるんだよな」

 

 ぼそりと呟く。

 

「食べ切れないし。友人を助けると思って」

「そう言われては断れないな」

 

 迷わずチョコロールを選んだ。

 

「甘い。甘いなぁ。チョコクリームは人類文化の至宝だよな」

 

 もぐもぐと噛み締めながら、実に嬉しそうに繰り返す。

 ここしばらくのダイエットによる苦労が如実に解る。

 

「あ、そうだ。ハコベさんに聞きたいことがあったんだ」

「ん? なんだ? 凛華のスリーサイズでも聞きたいのか?」

「男子としては聞きたいところだけど、後で痛い目に遭いそうだから止めとくよ」

「それは正解だ。あいつも警棒が上手い。怒らすと怖いんだぞ」

 

 既に体験済みだとは言えない。

 

「で、聞きたいことって?」

「ハコベさんは、どうして生徒会に? 武装風紀委員長なんて凄い肩書きだし」

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る