《04-04》

「そういう恥ずかしい冗談は相手を見て言うんだ」

「あはは。ごめんごめん」

「さ、とにかく飯だ」

 

 弁当箱のふたを開ける。

 

 おかずと御飯が六対四の黄金比率。

 フリカケで綺麗にお化粧された俵型のオニギリ。

 おかずは玉子焼きに赤ウインナーという定番のメニューに加え、

 カラアゲと半分に切ったコロッケが行儀良く並ぶ。

 爪楊枝に刺さったプチトマトに、茹でたブロッコリーまで添え、見た目だけでなくバランスも考えられた理想的なお弁当だった。

 

「うわっ、すごい」

 

 思わず感嘆を漏らした春乃とは対照的に、力の抜けた表情になる函辺。

 

「トマトは入れないでって言ってるのにぃ」

「え、そのお弁当って」

「時に草陰、トマトは好きか?」

「は?」

「好きかと聞いているんだ。ハッキリ言え」

「え、まあ、好きな方かな」

「では、あげよう」

 

 さっと箸で摘まんで、春乃の前に突きつけた。

 

「ほら、早く口を開けろ」

「え、ちょっと、それは」

 

 これは絵的にマズい気がする。

 

「あの、ハコベさん」

「お前は困っている友人を見捨てるんだな? そんな人間なんだな?」

 

 そう言われては、どうにもならない。結局、ままよと口を開いた。

 

 すかさず函辺がプチトマトを押し込む。

 

「残したら文句を言われるからな。これが最良の決着だ」

 

 ご機嫌でそう言うと、そのままの箸でカラアゲを取って口に運ぶ。

 

 関節キッスという思春期ならではの甘酸っぱい単語が脳裏に浮かんだ春乃だが、函辺にそういう意識はないのだろう。

 

 咳払いをして中断されていた話題を再開した。

 

「そのお弁当、自分で作ったんじゃないんだね」

「家事全般は苦手なんだ。料理はカレーが精一杯ってとこだな」

「カレーができれば十分だよ」

「毎食カレーは軽い拷問だぞ。ところで、この弁当は誰が作ったと思う? 草陰もよく知ってる人間だぞ。正解できたら、このブロッコリーもプレゼントしてやろう」

「野菜、嫌いなんだね」

「いいことを教えてやる。乙女の秘密を詮索する男は嫌われるぞ」

 

 軽いウィンク付きで忠告。

 

「あはは。気をつけるよ。で、そのお弁当を作った人だよね」

 

 

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