《07-16》

 

                    ※ ※ ※

 

 

 徐々にではあるが差が開き始めていた。

 大きく跳ねる心臓、途切れ始める呼気。

 それでも春乃は懸命に足を動かし、ひたすらに駆ける。

 

 軍服姿の偽まろみが向かっているのは第六校舎。

 狡猾な彼女の事だ。何か策が残っているのかもしれない。

 できれば校舎に着く前に追いつきたい。

 

 学区に転入しまだ短い。しかも主計科という座学中心のカリキュラム。

 相手が女子でも体力勝負は分が悪い。

 

 そうこうしている間に、偽まろみが第六校舎に入った。

 

 入れ替わるように、中から警棒を手にした生徒達が飛び出してきた。

 その数九名。全員が濃紺のエプロンドレスに身を包んでいる。

 

「近衛侍女隊の人?」

 

 春乃の鼻先を、横薙ぎの警棒が掠めた。

 

 無様に体勢を崩しながらも、春乃はなんとか後ろに下がって距離を開ける。

 

「ちょっと待って!」

 

 しかし、メイド達は春乃の声に耳を貸そうともしない。

 あっという間に囲い込んだ。

 

「まろみ様に仇名す不届き者め。我ら近衛侍女隊が排除してやる」

 

 正面に立ったセミロングのメイドが、抑揚の欠けた薄っぺらい声で告げた。

 

 春乃はこの喋り方に覚えがある。図書館で襲ってきた結衣達と一緒だ。

 あの時はまろみの言葉ですら効果がなかった。

 かなり強い暗示が掛かっているのだろう。

 

 じりじりと包囲を狭めてくるメイド達。

 

 突破口を探して春乃が視線を走らせる。

 が、そんな都合の良いポイントは、ない。

 

「死ね!」

 

 衣装に似つかわしくない怒声と共に、一人のメイドが春乃の背後で警棒を振り上げる。

 

 そこにしなやかな人影が滑り込んできた。

 メイドが反応するよりも早く鳩尾に手にした警棒を打ち込む。

 

「かはっ」

 

 苦し気な吐息を漏らしながら、メイドが崩れ落ちた。

 

「ハコベさん!」

「礼は後だ」

 

 シンプルに答えると、次のターゲットに向かう。

 

 いきなりの乱入者に少ながらず動揺があった。

 そこを衝かれ、二人目のメイドも何の抵抗もできずに倒れた。

 

「お、落ち着け。敵は……」

 

 リーダー格であるセミロングのメイドが言い終えるよりも早く、函辺が間合いを詰めた。

 これまた警棒の一撃で昏倒させる。

 

 そこで函辺は、大きく息を吐いた。力を溜める為の僅かな間だ。

 

 その一瞬にメイド達はなんとか落ち着きを取り戻そうとするが。

 

 函辺の猛禽を思わせる視線が次の獲物を射抜く。

 

 

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