《06-05》

「良かった。いくら呼んでも全然返事がなくて、大丈夫かなって」

「ごめん、まろみたん。心配掛けちゃったみたいだね」

 

 弱々しい話し方は、春乃の記憶にあるまろみだ。

 

「ベッドの下にね、食料と水があるよ。少しでも口にしておいた方がいいと思う」

「うん」

 

 戻ってベッドの下を覗き込む。

 二リットルのミネラルウォーターが十本に、スポーツドリンクが五本。

 それに乾パンの缶詰が二ダースと、ジャムの瓶があった。

 

 とりあえず水で喉の渇きを潤すと、乾パンを開けながら鉄格子の側に座り込んだ。

 

「まろみたん、辛そうだけど大丈夫?」

 

 まろみの少し疲れた声色が気になって尋ねた。

 

「あんまり眠れてないんだ。すごく頭が痛くなって、直ぐに目が覚めちゃって」

「あ、そうだ」

 

 胸元に手を当てる。

 硬い感触。どうやらネックレスは無事だ。

 

 取り出してみると、中央にぶら下がっている緑石の色が深くなっているような気がする。

 

「まろみたん。これ、友人から貰った安眠のお守りなんだ」

 

 鉄格子の隙間から、まろみの方に投げる。

 

「あ、すごく綺麗。でも安眠って珍しいご利益だね。これをくれたのってどんな人?」

「えっと、それは……」

 

 サトリだとは言えず、返答に窮してしまう。

 

「やっぱり女の子、なのかな?」

 

 トーンが少し下がっていた。

 春乃は反射的に「違うよ」と声を上げる。

 

「男だよ。男の友達。転入祝いに貰ったんだ。あまり眠れてないみたいだって言われて」

「ふうん。そうなんだ」

「本当だよ。嘘じゃないから」

「そうやって念を押すところが怪しい」

「ホントに違うんだって。どう言えばいいのかな」

「ううん。解ってる。ちょっと意地悪してみただけ」

 

 明るくなった声色に、春乃は安堵した。

 

「それにしても、ここはどこなんだろう?」

 

 格子の隙間から見る限り、近くに見張りの類は居ないようだ。

 いや、食料と水がまとめて置かれている点を考慮すると、しばらくは誰も来ないのかもしれない。

 

「ごめん。全然解らないの」

「そっか」

 

 互いに大きく息をついて、黙り込んでしまう。

 

「あのね、春くん」

 

 重苦しい沈黙を破ったのは、意外にもまろみの方。

 

「私、春くんが転校してくるって聞いて、すっごく楽しみにしてたんだよ」

 

 明るい口調だった。

 

 

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