《07-14》
「おのれ!」
吐き捨てると、指揮台から身を躍らせた。
所詮は一メートル弱の高さ、難なく着地。
第六校舎の方に駆け出す。
「偽者を逃がすな!」
誰かの叫びに、グラウンドの生徒が波となって動いた。
「止まれ! 止まるのだ!」
壇上に残ったまろみがマイクで叫ぶ。
「偽者は余らが始末する! 控えておれ!」
絶対支配者の力は健在。暴徒と化しかけていた生徒達を一喝で押し留めた。
と、まろみの身体が崩れ落ちた。力なく膝をつく。
「まろみたん!」
春乃が急いで駆け寄り、荒く浅い息を繰り返すまろみのか細い肩を抱く。
「少々、無理をしたようだ。我ながら軟弱なことよ」
度重なる人格の交代は、かなりの負担になるのだろう。
憔悴した顔からは色が失せ、額には大粒の汗が浮いていた。
「春乃よ」
瞳が不安気に揺れた。先ほどまであった威圧感が霧散する。
「安心して、僕はずっと側にいるから」
反射的に頷きかけたまろみだったが、首を振った。
「ダメ。追って。私は全然大丈夫だから」
「まろみたん」
「あの人を逃がしたら、全部ダメになっちゃう。だから、春くん。だから、春乃よ、追え。追うのだ」
「解ったよ。任せて」
即答すると、静かに立ち上がった。
「凛華さん、まろみたんを頼みます」
そう残すと、すぐさま指揮台を飛び降りた。
そのまま振り返りもせずに駆けていく。
「小鬼田さん! 春乃様を!」
凛華が指示するよりも早く、函辺は走り出していた。
「お任せください。春乃様」
まろみを支えながら、遠い背中に応える。
迷いがないはずがない。心配がないはずがない。まろみがこれほどまでに苦んでいるのだ。
しかし、それは春乃自身の想いでしかない。
己の感情とまろみの希望。即座に後者を選択できる。
その純粋な心に凛華は、改めて敬意を覚えた。
「春乃は行ったか」
「はい。向かわれました」
「あやつは、余の期待を裏切ったことがないのだ。子供の頃からな」
「解ります。あの方はそういう方です」
「余は少々疲れた」
「後は我らに任せて、少しお休みください」
「済まぬな。お前にも迷惑を掛ける」
大きく息をつくと、まろみは静かに目を閉じた。
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