《07-15》

 

                    ※ ※ ※

 

 

「ほう、逃げ足はなかなかやな」

 

 第三校舎の屋上。

 双眼鏡を覗きながら、撫子が満足そうに呟く。

 

 彼女の目はグラウンドから離れ、第六校舎に向かって走っていく軍服のまろみを追っていた。

 

「で、忍者隊の首尾はどうなっとる?」

「今、戦闘が終了した」

 

 レシーバーを耳に当てていた萩人が端的に応える。

 

「ほんまに脇が甘い連中や。お陰で余計なサービスまでさせられてしもたで」

「姫にしては珍しいことだ」

 

 まろみの指示で寮に向かっていた武装風紀委員。

 彼らは学舎からの爆音で非常事態を察し、急遽反転していた。

 だが、これは撫子にとって予想の範疇内。

 

 撫子は二十名を二隊に分割していたのだ。

 八名をかく乱に回し、残りを反転するであろう武装風紀委員の足止めに向けていた。

 

 正面からぶつからず、発煙弾などを使って精一杯時間を稼ぐ。

 こういった戦い方は、桔梗忍者隊の得意とするところだった。

 

「せやけど、これで貸し借りゼロ。綺麗サッパリやな」

 

 嘯く撫子に苦笑していた萩人だったが。

 

「なに? いないだと?」

 

 レシーバーからの報告に思わず声を上げた。

 

「どないした?」

「ちょっと出てくる。俺個人としては、まだ草陰に借りを返せてないからな。ここらで後腐れないようにしとくさ」

「まあ、気の済むようにしたらええわ」

「そうさせてもらう」

 

 素っ気無い返事に頷くと、くるりと背を向け昇降口に向かう。

 

「待ち」

 

 呼び止められた萩人が首だけで振り返った。

 

「気付けるんやで」

「俺を心配してくれるのか?」

「あ、阿呆言いな」

 

 目を丸くする萩人から、慌てて顔を逸らした。

 

「お前の代わりくらい、いくらでもおる。せやけど、せやけどな」

 

 言葉を止めて、しばし思考を揺らした。

 やがて諦めたように、大きく溜息を一つ。

 

「あれこれ考えるのは止めや。ええか、しょうもないことで怪我したら許さへんで。ウチにお前の代わりはおらんのやからな」

 

 初めて耳にする言葉に萩人が固まる。

 

「ほら、早よう行き! ちんたらしてる暇はないんやろ!」

「あ、そうだな。行ってくる」

 

 萩人の姿が消えたところで、先ほどより大きな息をこぼした。

 

「ウチらしいないわ。まったく、誰かの阿呆が伝染ったんや。ほんまに迷惑な話や」

 

 

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