《07-13》

「まろみたん」

 

 心配そうな春乃に、不敵な笑みで振り返る。

 闘志を秘めた瞳には、不安の欠片すら残っていない。

 

「案ずるな。交代しただけだ。さて」

 

 顔を前に戻す。

 

「後はお前の処分だけだな」

「そんなバカな! 有り得ない!」

「ふん。己が定規だけで人を測る愚か者が! お前ごときが支配者を気取るとは一万年早いわ!」

「か、輝く者は一本のヤドリギによりその光を失う!」

 

 悲鳴に近い声で叫んだ。

 

 くらりとまろみの頭が揺れる。

 が、ぐっと足に力を入れて、踏みとどまった。

 

「まろみたん」

「大丈夫だから!」

 

 背を向けたまま答える。

 

「大丈夫だから、見てて。私、負けないから」

 

 震えそうになる足、挫けそうになる心を叱咤し、逆に踏み進める。

 

「輝く者は一本のヤドリギによりその光を失う! 輝く者は一本のヤドリギによりその光を失う! 輝く者は一本のヤドリギによりその光を失う!」

 

 だが、まろみの足は止まらない。

 鳴り響く頭痛を押さえ込んで、一歩ずつ前に進む。

 

「何故だ。お前は、仮面のないお前は、なにもできない無力な存在のはずなのに」

「まだ解らないの?」

(まだ解らぬのか?)

 

 高低二つが混じり合った奇妙な声が、まろみの口から流れた。

 

「私の後ろには春くんがいてくれる。私を見守ってくれてる」

(余の後ろには春乃がおるのだ。余を見守ってくれておる)

 

「それだけじゃないよ。凛華さんや函辺さんもいてくれる」

(それだけではない。凛華や函辺が余を支えてくれておる)

 

「みんなが私に頑張れって言ってくれる。だがら、私は負けられないの」

(みなが余の背中を押すのだ。であれば、無様な姿は見せられんであろ)

 

「私は弱くてちっぽけだけど、あんたなんかに負けない」

(余は軟弱で小さな人間だ。だが、お前如きに負けん)

 

「人の心を、想いを勝手に書き換えるような卑怯者なんかに負けるもんか!」

(人の心を、想いを好き勝手に弄て遊ぶような卑怯者に負けるものか!)

 

 じりじりと下がっていた偽者。

 その足が不意に支えを失った。

 

 慌てて振り返る。

 指揮台の端まで追いやられていた。

 その姿には支配者としての威厳は微塵もない。

 

 二人の対決を見つめていた生徒達。

 彼らの目にも、どちらが本物かは明らかだった。

 

 

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