《07-12》

 もはや絶体絶命に思える偽者。

 しかし、その顔には落ち着きが戻っていた。

 

「くくく、これで勝ったつもりか。残念だが、こちらにも奥の手があるのだよ」

 

 そう言い放つと、凛華にほっそりした指を突きつける。

 

「白きアースよ。鋭き耳を澄ますせ。そして我が声を聞け!」

 

 続いて函辺の方に指を向けた。

 

「猛き者よ。鉄の右手を示せ。その剣を我が為に振るうのだ!」

 

 意味不明の言葉に、壇上の四人が怪訝な顔になる。

 

「さあ、春乃とまろみを捕らえるのだ!」

「なるほど、そういうことですか」

 

 合点がいったように、凛華が頷いた。

 

「今のが非常用のコマンドワードですね。不思議な言葉で驚きましたが、偶然耳にしないという点を考慮すれば理に適っています」

 

 冷静に告げる凛華に、軍服のまろみが目を見開く。

 

「なかなか詩的な表現、おそらくは元になった物があるのでしょう。それを尋ねたいですね。貴方を捕縛してから、ゆっくりと」

「何故、余の言葉に従わぬのだ」

「簡単ですよ。私達は既に…」

「自分らは既に脱してるんだよ。お前の下らない仕掛けからな」

「小鬼田さん! 邪魔をしないでください!」

「邪魔って、なにもしてないだろ」

 

 いきなりの抗議に、函辺は当惑してしまう。

 

 そんな函辺を置いて凛華が、軍服のまろみ睨みつける。

 

「とにかく、貴方に逃げ場はありません」

「それは、どうかな。菜綱 まろみよ! 我が声を聞け!」

 

 制服のまろみが身体を強張らせた。

 

「輝く者は一本のヤドリギによりその光を失う!」

 

 その一言にまろみが、ふらふらと後ずさる。

 

「まろみたん!」

 

 咄嗟に春乃が後ろから支えた。

 

「くくく。形成逆転だな。支配者としての仮面を失ったお前に……」

 

 言葉が途切れた。

 いや遮られた表現するのが適切だろう。

 

 制服のまろみは一歩踏み出しただけ。

 それだけの動きに、軍服のまろみは続きを飲み込んでしまった。

 

 小さな少女が放つ威圧感。

 急激に増したそれに、軍服のまろみは気圧されたのだ。

 

「どうした? 仮面を失った余がどうだと言うのだ?」

「何故、そっちのまろみが」

「なるほど、表層にいる方が下がるのか。面白いカラクリだな」

 

 納得したように呟く。

 

 

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