《03-21》

 まず春乃から。

 

「どうしてここに?」

「まろみ様達が、ここに入るのを偶然見かけました。直後、シャッターが閉まったもので」

 

 続いてまろみが。

 

「モールに来ていたのか?」

「時間が空いたので、服を買いにきていました」

「服を、な」

 

 まろみの目が凛華の頭から足下までを、何度も往復する。

 

「ハコベさんも一緒だったんですか?」

「え? あ、はい。小鬼田とは子供の頃からの腐れ縁ですので、よく一緒に出掛けます」

「そうなんですか。じゃあ第一斑の人達は?」

「えっと、あ、偶然です。彼らには偶然会いました」

 

 ちょっと苦しいが、みんなして二人のデートを見守っていましたとは言えない。

 

「その服を買ったのか?」

 

 その質問で自分の格好に気付いた。完全隠密な服装だった。

 

 焦る気持ちを冷静な仮面で隠し、ここは嘘を貫くしかないと覚悟を決めた。

 

「そうです。この季節のトレンドですから」

「む? その変な格好が流行りなのか」

「そうです。これがナウいのです」

「じゃあ、ハコベさん達も?」

「もちろんです。これからプライベートで出掛ける時には、この格好になります」

 

 雪原を転がる雪球のように、どんどん嘘が大きくなっていく。

 

「お二人の無事も確認できましたので、ショッピングに戻らせて頂こうと思うのですが」

 

 これ以上の問答は益々ボロが出る。早々に退散すべきと判断した。

 

「うむ、心配を掛けたな」

「ありがとうございました。また月曜日に」

「では、失礼します」

 

 踵を返して、早足で去っていく。

 

「随分と急いでおるようだな」

「きっと、欲しい服があるんだろうね」

「しかしあんな服が流行るとは、世の中は随分と歪んできているな」

 

 街中に黒いトレンチコートが溢れるのを想像すると、嘆息せざるを得ない。

 

「じゃあ、僕達もそろそろ帰ろっか」

 

 そう言って差し出された手があまりに自然だったので、

「ふむ、そうだな」

 と、あまりに自然に握り返した。

 

 

                    ※ ※ ※

 

 

 ディスプレイに照らされていた口が、大きく息を吐いた。

 緊張と心配が、弛緩と安堵に変わる。

 

「こんな結末になるとはね。ボクの予想を遥かに超えていたよ。あの力を目の当たりにして、それでも彼女を受け入れられるなんて。転校生、君こそがカウンターだ。ボクの判断は間違っていなかった」

 

 ディスプレイの上を指が走る。画面が次々と切り替わっていく。

 

「桔梗 撫子は生き残った。須々木 萩人は復讐の獣にはならず、まろみは掛け替えのない絆を深めた。つまり、全てのフラグを覆したことになった。ストーリーを大きく書き換える必要が出てくるはずだ。いいぞ。これで焦って動いてくれれば、こちらが付け入る隙も生まれるはずだ」

 

 ふふっと小さく笑いを漏らした。

 

 

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