《08-03》

「ごめん。心配掛けちゃったみたいだね」

「ホントだよ。すっごく心配したんだから。春くんが遠くへ行っちゃうんじゃないかって」

「大丈夫。僕はずっと傍にいるから」

 

 腕を伸ばして、溢れそうな涙をそっと拭った。

 その手をまろみの両手が包み込む。

 

「絶対だよ。約束だからね。何があっても、ずっと一緒にいてくれるって」

「うん。約束するよ。ずっと一緒にいるから」

 

 陰りのない言葉に、まろみは頬を赤らめた。

 

「あのね、春くん」

 

 手を離すと、ベッドに少し顔を近付ける。

 

「私ね、春くんに再会したら、ずっと伝えたいことがあったの」

「僕もだよ。僕は……」

「待って!」

 

 まろみが遮った。

 その真剣な瞳に、春乃は続きを飲み込む。

 

「私が、私が言うから」

 

 小さな拳を胸の前で握ると、意を決したように小さく頷いた。

 

「私、私ね、ずっとずっと春くんの……。いきなり抜け駆けというわけか?」

「は?」

 

 飛び出した謎の言葉と、いきなり転調した声色に春乃は間抜けたリアクションをしてしまう。

 

「春乃も春乃だ。無様に鼻の下を伸ばしおって」

 

 偉そうに腕組みをしたまろみが続ける。

 その頬は不機嫌を溜め込んで、大きく膨らんでいた。

 と、その顔が途端に当惑に染まった。

 

「どうして邪魔するの? 今は私の時間のはずでしょ。ふん、時と場合による」

 

 またも雰囲気が変わった。

 

「これは余の身体なのだ。好き勝手されては困る。好き勝手ってどういう意味よ。そもそも、これは私の身体なんだよ」

 

 くるくると表情を変化させつつ、一人で口論を始めるまろみ。

 

 そんなまろみに唖然としてた春乃だったが、ある可能性に行き着いた。

 

「まろみたん。ひょっとして、中に二人?」

 

 奇妙だが、実に的を射た問いだった。

 

 まろみがぴたりと動きを止め、大きく溜息を漏らす。

 

「そうだ。今は余とこやつ。二人が同時に存在しておる。多分だけど、短時間で何度も入れ替わったからだと思うの。まったく迷惑な話だ。迷惑してるのは私の方だよ。だがな。でもね」

 

 まろみが微笑む。

 二つの心が重なった綺麗な笑顔だ。

 

「どっちも私だから。どちらも余だからな」

「うん。そうだね。どっちも、まろみたんだもんね」

 

 そこでドアがノックされた。

 

 春乃の返事を待って、室内に入ってきたのは凛華と函辺。

 目を覚ました春乃に、少し驚いた様子を滲ませた。

 

 

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