《06-12》
珍しく声を荒げた凛華を、優しく諭すように続ける。
「まろみの言葉が人を従わせるのではないんだよ。逆なんだ」
「逆? なにが逆なのです?」
「この学区の全生徒は、まろみの命令に従うように刷り込まれている。記憶の奥底に強くね。その強力な暗示が彼女の言葉に服従させるんだ」
「まさか、そんな」
「今の君達、まろみが偽者だと知った君達には、絶対支配者としての力は通じないだろう。暗示の力は、本人が本物だと認識しているまろみを前提にしているからね。しかし、それだけじゃないんだ。側近である君達には非常用のコマンドワードが仕込まれている。行動を停止させたり、短時間なら自我を封じ込めて操ったりもできるだろう」
あまりのショックに二人は言葉が出なくなる。
「偽者を甘く見てはいけないよ。彼女は恐ろしいほど狡猾で利己的だ。自分の理想の世界、理想の舞台の為に、五千人の生徒を巧妙に操っているんだから。表に出ることなくね」
「聞けば聞くほど気に入らない奴だな。ぶん殴ってやりたくなる」
函辺が実に彼女らしい悪態をつく。
その瞳は闘志に満ちた猛禽の物に変わっていた。
そんな函辺に凛華の動揺が収まる。
函辺の力に溢れた言動は不安を払い、安心をくれるのだ。
「サトリさんの言いたいことは概ね理解しました。私も小鬼田さんに近い感情を抱いています。本物のまろみ様を救出する。それに依存はありません」
「良かった。いきなり話も聞かずに捕縛されたら、どうしようかと心配していたからね」
安堵した言い方に、凛華が口元を緩めた。
「冗談がお上手ですね。寮の中は戦闘禁止。それを見越して尋ねてこられたのでしょう?」
「いやいや、禁止されているはずの戦闘行為をほのめかし、捕縛しようとした副官さんには負けるよ」
棘のある言葉を返しながら、ポケットから二つ折りされた紙を取り出す。
「ここに君達が落とした記憶の鍵がある。まろみと共に捕らえられている少年の写真をプリントアウトした物だ。これを見れば君達に刷り込まれた記憶は崩れ、本来の記憶が戻るはずだよ」
受け取ろうと伸ばした凛華の手を、さっと避ける。
「最後に、もう一度だけ君達の覚悟を確認させて欲しい。君達の記憶がどこまで戻るか解らない。改竄された全てが一気に戻る可能性だってある」
「自分達はどんな記憶でも受け止める覚悟があるさ。偽者に対する憤りも十分にな」
苛立ちを含んだ函辺の言に、凛華が頷いて同意を表す。
だが、サトリは小さく首を振った。
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