《06-11》

「一週間経ったら、自分達はどうなるんだ?」

「どうにもならないよ。全て今まで通り。武装風紀委員委員長の小鬼田 函辺と、まろみの頼れるブレーン御形 凛華としての生活が続くだけさ」

「偽りの記憶で、決められた役割を演じ続けるというわけですか」

「役割を演じるのは決して苦しいことじゃない。いや、むしろ本当の自分よりも楽しい時間を過ごしているとも考えられる」

 

 本当の自分が今より恵まれた状態である保障はない。

 それなら、幸せな時間を演じ続ける方が良いだろう。

 理屈では納得できるが、感情的には受け入れられない事だ。

 

「言いたいことは理解できました。そして、貴方がここに来たということは、記憶を取り戻す方法をご存知だということですね」

「急激な記憶の改竄で綻びが出ている状態なら、という前提があるけどね」

「なるほど」

 

 凛華が納得して頷く。

 

「今までの話を整理すると、一つの仮定が導き出せます。本物のまろみ様達は、今どこかで記憶の改竄を受けているのでは?」

「鋭いね。そう、まろみには支配者としての役割が。一緒にいる彼には、そう、彼には最も辛い役割が与えられるはずだ。そうなる前に二人を助けたい」

「他人の記憶を弄くって、自分のやりたいようにするか。そういうマネは気に食わないな。いいだろう」

「ちょっと待ってください。まだ大きな疑問が残っています」

 

 函辺を遮って、凛華がくいっと眼鏡を上げた。

 

「今のまろみ様が偽者として。本物のまろみ様が捕らえられているとして。何故、二人を助けるのに私達が記憶を取り戻す必要があるのです?」

「今の君達ではダメだからだ」

「どういう意味です?」

 

 サトリが眼鏡を外す。

 強い意思のこもった切れ長の瞳が現れた。

 

「人は記憶に支配される。そして君達の記憶には致命的な仕掛けがされている」

「仕掛け?」

 

 函辺と凛華、二人の声が揃った。

 

「君達はまろみの、絶対支配者としての力を知っているかい?」

 

 即答できなかった。

 少しの間を置いて、凛華が口を開く。

 

「しかし、まろみ様はその力を忌み嫌っておられます」

 

 凛華はまろみが振るう絶対支配者の力を幾度となく目にしてきた。

 そして、その力に溺れそうになる自身を、まろみ本人がどれだけ恐れているか。

 嫌と言うほど知っている。

 

「全ての者を従わせる言葉。絶対支配者たる者の力。そんな物、まろみは持っていない」

「ですが、現にまろみ様は!」

「この世界に超能力なんてない。それは巧妙に擬態した嘘だ」

 

 

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