《06-17》

「いいんじゃないか。あいつが行き着いた結論なんだから」

「ふふ、君は不器用な人間だね。でも、そこが素敵だと思うよ」

「下らないこと……」

「小鬼田という人間に、素敵という評価を下すとは正直驚きました」

 

 建物の陰から、少女が静かに進み出た。

 

「人目を忍んで待ち合わせをするなら、時間ギリギリまでは姿を隠しておくべきです」

「凛華、やっぱり来てくれ……」

 

 黒のトレンチコートにキャップ。

 彼女曰く隠密性を重視したスタイルである。

 

「また、その格好かよ」

「む、なんですか。言いたいことがあるなら、ハッキリ言ったらどうです?」

「ボクは個性的でいいと思うよ」

「個性的ではなく機能的です」

「機能的ね。ふふ、確かにある意味では実に機能的だ」

 

 どうにも引っかかる言い方だが、それを気にしている暇はない。

 

「まろみ様と春乃様はどこに?」

「地下牢だよ」

 

 不吉な単語に、凛華が眉をひそめた。

 

「そんな物がどこにあるというのです?」

「この学区の地下にある。公には存在していない部屋だけどね。第六校舎の裏に入り口が隠されているんだ」

 

 信じられない言葉に、凛華と函辺が顔を見合わせる。

 

「この学区にはある目的があるんだ。その邪魔になる物を排除する為に作られた場所だよ」

「邪魔になるというのは、ひょっとして」

「そう、副官さんの思っている通りさ。記憶の改竄は完璧じゃない。偶然にも記憶を取り戻してしまう生徒がいる。彼らを集めて…」

「始末するってのか?」

「そんなわけないでしょう」

 

 函辺の推測を凛華が一言で切り捨てた。

 

「生徒数が減るようなことがあれば、隠蔽なんてできるはずがありません」

「その通り。大事になると困るからね。牢獄には記憶を書き換える設備があるんだ。とても強力な物がね」

「なるほど」

「その言い方だと、偽者が記憶を改竄できるのは、この学区に在籍している者に限られるということですね」

「そうなるかな」

「では次の疑問が出てきます。私達はどんな方法で記憶を改竄されているのでしょう?」

「シンプルに言えば音だよ。可聴範囲外のね。この学区内では常に記憶を歪める音が響いているんだ。学区全体に対し影響をもたらす場合もあるし、個人を狙い撃ちすることもできる」

「それが本当であると仮定すると、この学区内のあらゆる所に、その音を出す仕組みがあることになります」

 

 凛華の確認にサトリが頷く。

 

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