《07-05》

「意見なんてない。俺は姫の言葉に従うだけだ」

「あのな、ウチは聞かせてくれと頼んでるのと違うで、言えと言うてるんや」

 

 すうっと目を細める撫子に、狼狽の色を見せた萩人だが直ぐに意を決して口を開く。

 

「俺はこいつらに協力すべきだと思う」

「なんでや?」

「俺はこいつに借りがある。こいつがいなければ、俺はこの手で、この手で姫を……」

「何を言うかと思たら阿呆らしい」

 

 大袈裟に溜息を一つ。

 

「あのな、借りっちゅうもんは自分から返す必要はないねん。どうしても返せと言われた時だけ、しぶしぶ返したらええんや。聞くだけ無駄やったな」

 

 つまらなそうに告げると、春乃に視線を戻した。

 

「繰り返すけどな、手を貸す気はあらへん。帰ってくれへんやろか」

「解ったよ」

 

 無念極まりないところだが、これ以上交渉を続けても無駄だろう。

 仕方なく腰を上げる。

 

「ごめん。朝早くに押しかけちゃって」

「春くん」

 

 憔悴した背中にまろみがそっと触れる。

 

「僕は何をやっても無力だね」

「そんなことないよ。頑張ってくれてるもん」

 

 泣きそうなまろみに精一杯の笑みを見せると、部屋を出ようと踵を返した。

 

「待ち」

 

 撫子が呼び止める。

 

「あんたら阿呆ちゃうか。呆れて物も言えんで」

 

 振り返る二人に、撫子にしては珍しく苛立ちを露にした。

 

「人の話をちゃんと聞いてたか? 借りっちゅうもんは、どうしても返せと言われた時に返すもんやと説明したったな?」

 

 撫子の言わんとする事が解らず、春乃とまろみが互いに顔を見合わせる。

 

 そんな二人の様子に、

「あぁもう! イライラするわ! なんなんや、この二人は!」

 とうとう撫子が声を荒げた。

 

「姫は、借りを返せと言えばいいと言ってるんだ」

 

 萩人の端的な説明に、春乃達はようやく合点がいった。

 

「そんなの考えもしなかったよ」

「あぁ! もう! これやから阿呆と交渉するのは嫌なんや!」

 

 頭を抱えて机に突っ伏す。

 

「僕は貸しを作ったなんて思ってないし、そんなので無理やり……」

「もうええ! ウチは借りを返せと言われたから、しぶしぶ協力したるだけや!」

 

 

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