《07-04》

「この子は違う。見た目はそっくりやけどな。ウチは桔梗やで。それなりに人を見る勉強はしてる。ハッキリ言わせてもらうけど、この子には覇気があれへん」

 

 事も無げに切り捨てられた。

 まろみが力なく肩を落とす。

 

「彼女が本物のまろみたんなんだ。間違いなく」

「そうは言うけどな……」

 

 春乃の向ける真剣な目に、撫子が大きく息をついた。

 

「ええやろ。アンタに免じて信じたる。で?」

「僕達は偽者を倒したい。その為に力を貸して欲しいんだ」

「なるほどな。偽者や言うても、相手はこの学区に君臨する絶対支配者や。それに抗する力となると、『ハルベルデ』しかない。そういうわけやな」

 

 頷く春乃。

 

「残念やけど、それは無理や。偽者の後に君臨するのは、そこにおる子なんやろ。ウチにとっては、何の得もあらへん。いや、むしろ偽者の方が組し易いかも知れんしな」

「でも……」

「あのな。ウチと春乃はんは敵同士や。協力する必要性はあらへんやろ。どや? 間違ごうとる思うか?」

「それは、そうかも知れないけど」

 

 撫子の主張はもっともだ。反論の余地がない。

 しかし、なんとか論破せねばと考えるうちに、春乃は床を見つめるしかなくなってしまう。

 

「言いたいことがあったらハッキリ言うたらどや」

 

 意外な台詞に春乃が顔を上げる。

 撫子の目は春乃の上に向いていた。

 それを追って振り返る。

 

「君は」

 

 思わず春乃が声を漏らした。

 

「文句なんてあるはずがない。姫の言うことは常に正解だ」

 

 萩人だった。

 いつの間にか室内に入っていた彼に、まろみもただ驚くしかなかった。

 

「その割には随分と不機嫌そうやで」

 

 制服姿で腕を組む萩人は、撫子の指摘通り絵に描いたような仏頂面だった。

 

「どうして萩人くんがここに?」

「ウチが呼んだ。春乃はんが折角尋ねて来てくれたんやからな」

「それってどういう意味?」

「捕縛してまろみはんとの交渉材料に使うつもりやった」

 

 あっさりと言い放つ撫子に、春乃は言葉を失ってしまう。

 

「とは言うてもや。あまりに警戒せえへんから。そんな気もなくなってしもうたで」

 

 自嘲気味の笑み浮かべながら、「せやけど、次はないで。覚えとき」と継ぎ足す。

 

「で、萩人。お前の意見を聞かせてもらおか」

 

 

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