《01-14》

「まったく、なんたる不敬な態度。一度、反省を促す必要がありますね」

 

 ドアが閉まったのを確認して、凛華が眼鏡をくいっと上げた。

 

「まろみ様、あまり些末なことを気に留めぬようお願い致します」

 

 思案顔で黙り込んでいるまろみに、凛華なりの気遣いを含んだ言葉を向ける。

 

「まろみ様は我らの偉大なる指導者として……」

「凛華よ」

「はい。まろみ様」

「余は明日から制服を着用することに決めたぞ」

 

 いきなりの発言に、凛華がぽかんと口を開ける。

 

「きっと余に似合うのであろ。春乃が言うのだからな。間違いない」

 

 机の上で首を伸ばして見上げている亀と目が合う。

 

「ふむ。ハルノ、お前もそう思うか」

 

 僅かに頬を緩めて、その鼻先を優しく撫でた。

 

 

                    ※ ※ ※

 

 

 十一学区の始業は八時三十五分。十分間のホームルームの後、一コマ目の授業となる。

 一コマは五十分で休憩時間は十分。昼休みも五十分で、四コマ目と五コマ目の間。

 平日は七コマ編成で、土日が休み。

 放課後から十八時三十分までが、放課後の部活時間となっている。

 

「始業開始から部活終了まで、校内や通学路での戦闘行為は禁止。それと、寮内は常に非戦闘区域となっている。つまり有事の際に寮に逃げ込むという選択肢はありだ」

 

 まろみの執務室を出ると、函辺以下武装風紀委員第一斑が待機していた。

 ルールについて聞きながら、寮、春乃の部屋に向かう。

 

「以上が戦闘に関するルールだ。だが、これが適用されるのは、学区の生徒のみ。今の草陰には適用されない。『ハルベルデ』の連中が血眼になって狙うのが理解できただろう?」

「ありがとう。よく解ったよ」

「しかし、男子であれば自分の身くらいは自分で護れるようになって欲しいところだ」

「それを言われると辛いね。迷惑掛けないように努力するよ」

「最低でも自分の荷物に音を上げない程度にはな」

 

 左手に提げたトラベラーバックを上げて、にっと歯を見せる。

 

 その重さに苦労する春乃を見かねて函辺が取り上げたのだ。

 

 女子に荷物を持たせるのに抵抗した春乃だが、「君は友人の好意を無下に断る失礼な趣味があるのか?」と言われては引き下がるしかなかった。

 

 男子寮は通用門である南門から出て左折、つまり東側に向かって徒歩十分の距離にある。

 ちなみに女子寮は校舎を挟んで対称の位置、西側十分の場所だ。

 

 寮は個人部屋。

 簡易キッチンにユニットバス、それに五畳部屋が二つと手狭な造りではあるが、空調や小型のテレビジョンも備え付けられており、快適な生活を送れるようになっている。

 

 

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