《01-16》

 少し右に首を傾げて、優しい表情を作った。

 写真で見たとおり、なんとなく心が温かくなる。

 

「草陰様のお部屋は第十二棟の最上階になります。ではご案内致しますね」


 もう一度小さく頭を下げ、ついて来るように促した。

 

 鈴奈から二歩ほど遅れて、春乃達が続く。

 

 寮の敷地は二メートルほどのコンクリート壁で外界から隔てられている。

 壁に沿って進むと、南東の端に大きな門があった。

 

「こちらが通用門です。非常用の門は北側にあります。入り口を一箇所にしてあるのは、もちろん風紀上の理由からです」

「嘆かわしい話だが、女生徒達の中に男子寮に立ち入ろうとする者もいるのだ」

「恋人同士っていつも一緒にいたいもんだけどさ。それを許しちゃうと恋人のいない不幸な人が暴動を起こしちゃうでしょ」

 

 鈴奈の説明に函辺と桜木の言葉が続く。

 

「門限は特に厳しく設定されておりませんが、良識のある範囲での行動をお願いしますね」

「はい。気をつけます」

「ふふ、わたくしに敬語は必要ありませんよ。同学年ですから」

「じゃあ、涼城さんも敬語はなしで、それと様付けは……」

「いえ、それはできません。草陰様はまろみ様の幼馴染。わたくし達とは立場が違います」

 

 ちらりと冷めた視線を函辺に向ける。

 

「むしろ、わたくしとしては、馴れ馴れしい口を利ける方々の心境が解りかねるくらいです。それが風紀を守る立場にある者であればなおさら」

「涼城、自分達は友人として接することに決めたんだ。もちろん、武装風紀委員として公的立場で接する際は、立場をわきまえた言動をさせてもらう。それで問題ないはずだよな」

 

 他のメンバーに動揺が生まれる前に、函辺が主張した。

 

 会話が途絶え、空気が微かに陰りを帯びてくる。

 

「あの、涼城さん」

 

 耐え切れず、春乃が口を開いた。

 

「はい、なんでしょう。草陰様」

「その衣装は制服じゃないですよね?」

「ふふ。これはまろみ様の近くでお仕えする近衛侍女隊のユニフォームです。旧世紀のメイド衣装をモデルに、愛らしさを七パーセントアップして作られました」

「近衛侍女隊、ですか?」

「はい。ちなみに七パーセントの内訳は、スカートの丈が既存より二センチ短くなっているのと、フリルが二割増しになっている点です。またカチューシャにも特徴が……」

「近衛侍女隊というのは、武装風紀委員と同じで今年度から編成された部隊だ。衛生課の女子十人で構成されていて、まろみ様のお世話を担当している。この涼城が隊長だ」

 

 脱線し始めた鈴奈に割り込んで、函辺が説明を終わらせた。

 

「そんな、小鬼田さん。武装風紀委員の皆様とご一緒なんて恐れ多いですよ。わたくし達はまろみ様の一番近くで、まろみ様に快適な生活を送って頂けるよう努力するのが精一杯。警棒を振り回して下品な暴力を振るうなんてできませんもの」

 

 

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