《01-17》
「それはそうか。近衛侍女隊は珍妙な衣装で男子生徒に色目を使うのが精一杯だしな」
「お褒め頂きありがとうございます。品性に欠けるところが、実にオニハコさん、失礼、小鬼田さんらしく思えます」
引きつった笑みを交換する二人に、春乃がごくりと喉を鳴らした。
「あのさ、春っち。武装風紀委員と近衛侍女隊はあんまり仲良くないんだよ。いわゆるケンケンの仲ってやつでさ」
「なるほど。あ、ケンケンじゃなくて、犬猿だね」
「うん。それそれ。っていうかさぁ、あのメイド服可愛いもんね」
桜木の談は一理ある。
可愛いメイド衣装に身を包んだ少女達と、制服を着て警棒を振り回す少女達。
倒錯した趣味を持ってない限り、前者の方を好む男子が多いだろう。
「失礼しました。お待たせしてしまって。草陰様、どうぞ、こちらです」
鈴奈に従って、門を潜る。
寮の敷地内、門から各寮の棟まではレンガ敷きのアプローチになっており、それに沿って花壇が作られている。
暦上では秋になるこの時期、背の低い控え目な花が並んでいた。
「そう言えば、涼城さん」
「はい、なんでしょう。草陰様」
「近衛侍女隊には佐藤 瀬莉さんもご一緒なんですか?」
まろみからの写真に写っていたもう一人について聞いてみた。
春乃にとっては、他愛ない世間話のつもり。
特に深い意味もない問い。
しかし、鈴奈の反応は春乃がまったく予想していない物だった。
柔和な笑みが瞬時に消えたかと思うと、大きな瞳を限界まで見開いて春乃に向ける。
微かに震える唇と、血の気の失せた頬が、彼女の動揺を雄弁に語っていた。
「涼城さん?」
その狼狽ぶりに、逆に春乃の方が声を漏らす。
「あ、いえ、失礼しました」
はっと我に返った鈴奈が頬を緩める。だが、その表情はぎこちなく不自然だ。
「佐藤 瀬莉さん、と言いましたっけ? 聞き覚えのない名前なのですが……」
「え、でも、三人は親友だって、まろみたんが」
「まろみ様が?」
「この人ですよ。ほら、三人で仲良く写ってる」
懐から手帳を取り出して最後のページ、そこに貼られている写真を見せる。
「これ、涼城さんですよね。こっちがまろみたんで、この子が……」
「草陰様、そこに写っているのは、まろみ様とわたくしではありません」
「え、だって、どう見ても」
「確かに似ていますが、そんな写真を撮った覚えはありませんもの」
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