《04-07》
「もちろん、まろみ様のお役に立つためにです」
「まろみたんとは親友なんですよね」
「親友だったという表現が正しいですね。今は立場が違いますから。でも、わたくしがまろみ様を想う心は今も変わりません」
「まろみたんが聞いたら、とても喜ぶと思います。ところで、まろみたんは入学して頃から、ずっとあんな風でした?」
「はい」
春乃の予想に反して、即答が返ってきた。
「入学当初からまろみ様は生徒会長を目指しておられたのです。堂々と自信のある立ち振る舞いを心掛け、常に生徒達の模範になるべく行動しておられましたよ」
春乃は違和感を覚えずにはいられなかった。
四月頃にまろみから受け取ったメールには、新しい生活に不安を募らせるネガティブな言葉が多かったからだ。
「草陰様が昔のまろみ様と、今のまろみ様の違いに当惑される気持ちは解ります。でも女性というのは、些細なきっかけで強くなれるものなんです」
内心を見透かされ、春乃が苦笑を浮かべる。
「こう見えても、人の顔色を窺うのは得意なんです。うふふ」
「でも、安心しました。今日のお昼にハコベさんに同じようなことを聞いたんですが……」
「草陰様」
不意に鈴奈の声が厚みを増した。表情にも険しさが見て取れる。
「過去を詮索するのは良くないと思います。大切なのは過去や過程でなく、今なんです」
「はい。気を付けます」
強い意思のこもった言葉に、春乃は気圧されつつも頷いてしまう。
「あ、ごめんなさい。無礼な発言をしてしまいました」
口元に手を当てると、慌てて頭を下げた。
「いえいえ、僕が変なことを聞いちゃったからですね。こちらこそ、ごめんなさい」
「うふ。草陰様っていつも優しいんですね」
顔を上げた時には、柔らかな顔に戻っていた。
「では、わたくしは掃除がありますので失礼しますね。五時過ぎには戻ってまいります。それまではこの部屋にいてくださいますか?」
「はい。解りました」
「それではよろしくお願いします」
深々と頭を下げて部屋を出る鈴奈を見送ってから、床を這っていた亀に餌をやる。
もしゃもしゃと音を立ててキャベツを咀嚼する亀を見ていると、下らない疑問なんてなくなってしまいそうだ。
確かに今が上手くいっているなら、それで……。
「今というのは過去と過程で積み重ねられた物なんだ。それを忘れちゃいけないよ」
聞き覚えのある声に、慌てて振り返る。
いつの間にか部屋に少年が入っていた。
だぶだぶの制服に、目深に被った帽子。白いマスクと黒縁の眼鏡。
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