《08-08》

 鈴奈が身体を起こした。

 

「誰です?」

「ボクの声を忘れちゃうなんて、随分と薄情な話だね」

 

 鈴奈が訝しげに眉をひそめた。

 

「電気を点けたらいいよ。安心して。セキュリティは切ってある」

 

 枕元、照明のボタンに手を伸ばす。

 

 部屋が明るくなった。

 

 蛍光灯の光に目を細めつつ、鈴奈はベッドの傍らに立つ人物を見た。

 途端に驚きで固まる。

 

 そんな鈴奈とは対称的に、サトリは柔らかい笑みを浮かべた。

 

 ふわりと広がる髪に細面の輪郭。切れ長の目と形良い鼻。艶やかな色が乗った唇。

 美少女よりは美女という単語が似合う。

 大人びた雰囲気を持つ少女だった。

 

「瀬莉……さん、どうして貴方がここに?」

「瀬莉か、懐かしい名前だね。ここ半年くらいはサトリと名乗っていたからね」

「サトリ? まさか貴方が?」

「そう、佐藤 瀬莉(さとう せり)。略してサトリだ。良いセンスだと思わないかい?」

「いきなり消えたと思ったら、サトリだなんて……」

「済まないことをしたとは思ってるよ。でも、君の世界に付き合うわけにはいかなかったんだ」

 

 そう言いながら、首元からネックレスを引き出す。

 春乃に渡した物と同じ、緑色の石がついている。


「この石から発される音波は洗脳音波を相殺する効果がある。君が身に付けているブローチの改良品だよ」

 

 鈴奈が息を飲んだ。

 

「どうして、そんな物を。まさか」

「そう。今、君の前にいるのは、親友の佐藤 瀬莉でも、謎のサトリでもない」

 

 そこでひと呼吸置いた。

 鈴奈の理解が追いつくのを待ったのだ。

 

「ボクが猟犬だ」

 

 蒼白になった鈴奈が小さく首を振る。

 

「有り得ませんわ。だって、だって」

「猟犬は追ってくるとは限らない。待って伏せている場合もある。ボクは君を監視する為に入学したんだ。そして君に近づいた。もちろん牙と爪を隠してね」

「そんな、そんなのって」

「組織を甘く見てはいけない。狡猾で恐ろしい物なんだから」

「貴方がここに現れたということは、わたくしを」

「そう、始末しに来た。裏切り者には死を。いささか陳腐だけど、それが決まりだからね」

 

 ポケットからハンドガンを取り出すと、鈴奈に向ける。

 

「この計画には莫大な時間と、莫大な費用が掛かっている。身勝手な妄想で無茶苦茶にするなんて、許されることじゃない」

 

 

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