《08-07》

「それって、どういう意味?」

 

 サトリにしては珍しく言葉を詰まらせた。

 少し間を取って、申し訳なささそうに答える。

 

「ボクの口からは言えないんだ。だから察して欲しい。物語は決められているんだよ」

「物語って。この舞台を作ったのは……」

「物語を紡ぐのは一人だけ、というルールがあるのかい?」

 

 ショックで言葉を失う春乃。

 

「ボクは君とまろみが好きだ。二人の絆はボクに希望をくれた。だから、その礼としてこれを託したいんだ。友人であるボクが君達に残せる唯一の物だから」

「解ったよ。ありがとう」

「礼を言うのはボクの方だよ、転校生。これで心置きなく旅立てる」

 

 しばしの沈黙があった。

 互いに残された言葉が、一つしかなかったからだ。

 

「さて、そろそろ時間のようだ」

 

 意を決して口を開いたのはサトリの方だった。

 

「サトリくん、またどこかで会えるかな?」

「もちろん。運命というのは、サプライズが大好きなんだ。いつか面白い偶然を見せてくれるはずさ」

「じゃあ、その時を楽しみにしてるよ」

「ボクもだよ。それじゃあ転校生、またどこかで」

「うん、またね」

 

 離れていく気配に、春乃は小さく手を振る。

 

 闇の中。

 サトリが手を上げてそれに応えたような気がした。

 

 

                    ※ ※ ※

 

 

 廊下に出たサトリは隣、鈴奈の病室に向かった。

 ノックもせずに中に入ると、暗闇の中を淀む事なくベッドの脇まで進んだ。

 

 静かな寝息を立てている鈴奈の顔を覗き込む。

 顎に厚く巻かれた包帯が痛々しい。

 

「昨日から目を覚ましているのは解っているよ。遠慮せずに目を開けたらどうだい?」

 

 

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