《08-09》
「この計画はわたくしの曽祖父の研究があってこそです!」
「可聴域外の音に特殊な加工を施し、それを聞かせ続けることで記憶を塗り替える。その技術を生んだのは、君の曽祖父であることは間違いない事実だよ」
「であれば……」
「しかし、その研究に膨大な費用を出したのは、ボク達『ミーミルの泉』だ。この学区に仕掛けを組み込んだのもね。曽祖父の功績を持って幹部扱いとされている君でも、今回の暴挙は許されない。それが幹部会の総意だ」
「でも、わたくしは!」
「悪いけど、君と議論してる暇はないんだ。なにぶん忙しい身でね」
声を上げる鈴奈を遮ってトリガーを引き絞る。
乾いた火薬の音が狭い病室に鳴り響いた。
※ ※ ※
レールロードが停止。
自動ドアが開くと同時に春乃は駆け出した。
行き先はエアポートのゲート。
旧世紀を模したこの世界と、今の時代の境界と言うべき分厚い金属の扉である。
出入りが制限された全寮制の教育施設。周囲に人の姿はない。
と、ゲートの傍で佇む少女を見つけた。
「涼城さん!」
「あ、草陰様」
鈴奈が顔を向けた。今日はメイド衣装ではなく制服姿だ。
「まろみたんは生徒会の会議が終わり次第こっちに来ます」
荒い息を整えながら告げる春乃に、鈴奈が口元を綻ばせた。
「そんなに急がなくても良かったんですよ」
「でも一人で待っているのって寂しいじゃないですか。だから、少しでも早くと思って」
「ふふ、草陰様はいつもお優しいんですね」
「そうですか? 普通だと思いますけど」
「だって、わたくしは貴方を殺そうとした人間なんですよ」
「でも僕は生きてますし、それに酷い怪我はお互い様だったし」
「相変わらずですね。ところで、草陰様に聞いておきたいことがあったんです」
「なんですか?」
「どうして、嘘をついたのですか?」
※ ※ ※
火薬音と共に吐き出された紙ふぶきとテープに、鈴奈はただ呆然とするしかない。
彼女に向けられていたのは、拳銃型のクラッカーだったのだ。
「ふふ、なかなか愉快な顔だね」
お腹を抱えて笑い出したサトリ、いや瀬莉に鈴奈が我に返る。
「これはどういうこと、です?」
「見ての通りだよ。君を殺すというのは冗談なんだ」
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