《08-12》

「わたくしに借りを作ろうと思ったからですか? 哀れんだからですか?」

「涼城さんが、まろみたんの親友だからですよ」

 

 意味を掴みかね首を傾げる鈴奈に、春乃は説明を継ぎ足す。

 

「親友の涼城さんが偽者を演じていたなんて知ると、まろみたんが悲しむじゃないですか」

 

 その説明にようやく合点がいった。

 と同時に大いに呆れる。


「まさか、本気でそんなことを?」

「おかしいですか?」

「おかしいです。異常です。非常識です。バカじゃないんですか。人間とは思えません」

「そんな、酷い」

 

 度重なる否定に、春乃は泣きそうになる。

 

「でも……」

「鈴奈!」

 

 甲高い声が割り込んできた。

 

 小さい支配者がこっちに駆けてくる。

 後ろには眼鏡の副官が続き、その隣には見目麗しい武装風紀委員長がいる。

 

「でも、今はそんな草陰様をとても心強く思います」

「え? なにか言いました」

 

 鈴奈の小さな呟きは届かなかった。

 

「鈴奈、本当に行ってしまうのだな」

 

 走り込んできたまろみが、いきなり抱きついた。

 

「申し訳ありません。諸般の事情で実家に戻らねばならなくなりました」

「それにしても、こんな急に。余は、私は……」

「まろみ様、またお会いできます。ほんの少しの間、お別れするだけです」

「約束だぞ。必ず余の傍に戻ってくるのだぞ」

「はい。必ず戻ってまいります」

 

 抱擁を解いて距離を開ける。

 

「お前は好きじゃなかったけどな。でも別れとなると寂しいもんだ」

 

 差し出しされた函辺の右手を、鈴奈が握り返す。

 

「わたくしもです。野蛮な方は苦手でしたが」

「誰が野蛮だよ。最後まで失礼な奴だな」

「正直と言って下さい」

 

 引きつった笑みを交換して、握手を解いた。

 

「涼城さん、今までまろみ様に尽くして下さった心は偽りない物と思っています。その点においてはとても感謝をしています」

「御形さん、その、なんて言ったらいいか」

 

 偽者の正体に気付いていると思われる凛華に、鈴奈は言葉を揺らしてしまう。

 

 

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