《08-11》
「この時期に転入なんて怪しいと思っていました」
だから春乃を猟犬だと睨んだのだ。
「記憶を操作して作り上げた世界が、この程度の外的要因で破綻するようなら、プラン自体が白紙に戻る。そう予想したんだ」
「結果、目論見通りというわけですか?」
「いや」
鈴奈の問いに瀬莉は首を振った。
「莫大な資金と時間を、一度の失敗で無駄にするわけにはいかない。だから、もっとテストを重ねることになった」
「どういうことです?」
「既に新しいストーリーテラーが学区に入り込んでいる。その者の手によって、この舞台は破滅に向かい進んでいく。君の描いていた物語よりも、もっと早くより残酷な形でね」
「そんな!」
「それをまろみ達が阻止できれば、このプランは白紙に戻るだろう」
「今すぐ、まろみ様にお知らせしないと!」
ベッドから飛び降り駆け出そうとする鈴奈を、瀬莉が押し留める。
「そんなことをしたら、間違いなく始末される」
「でも、このままではまろみ様が! まろみ様が!」
「大丈夫だよ。まろみは絶対に」
「どうして! どうして言い切れるのです!」
「草陰 春乃、彼がいる」
「あんな軟弱な男が! 何の役に立つと言うんですか!」
「現に彼は勝った。君に。ここのカラクリを全て知り尽くしている君にだ!」
「そ、それは……」
「二人の絆は負けない。偽りの記憶なんかに。それを一番知っているのは君だろう」
鈴奈が動きを止めた。
ふふっと自嘲気味な笑いを浮かべる。
「そうですね。わたくしは、まろみ様から草陰 春乃に関する記憶を消そうとしました。何度も何度もです。でも、ほんの些細なことを消すのが精一杯でした」
「当然だよ。未来を照らすのは叡智なんかじゃない。人の想いなんだから」
「ふふ、相変わらずロマンチストですね」
「ああ、ボクも夢見る乙女だから」
「ところでボクという呼称はなんなのです? とても違和感がありますわ」
「長い潜伏生活でね。随分と変なクセがついてしまったみたいなんだ」
その一言に、鈴奈が声を出して笑った。
いつもと違う素直な透き通った笑顔だった。
※ ※ ※
「そんな深い意味があったわけじゃないんですよ」
春乃が苦笑する。
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