《06-01》

【6】


「まろみ様、昨日の各委員からの報告をまとめておきました」

「ふむ、余がいなくても問題なかったようだな」

 

 凛華が差し出した書類を見ながらまろみが答えた。

 放課後、執務室でのやり取りである。

 

「ん、どうした?」

 

 なんとなく不思議そうな顔をしている凛華に尋ねた。

 

「いえ、なんとなく雰囲気が変わられたような」

 

 豪奢な椅子に身体を沈めているまろみ。

 黒を基調とした軍服はいつもまろみが着ている物だ。

 シルバーのカチューシャも普段と同じ物。

 しかし、どこか居心地の悪い物を感じてしまう。

 

「疲れておるのではないか。一昨日に体調を崩したと聞いているぞ」

「いえ、あれは……」

 

 放課後、寮で寝込んでいた記憶があるのだが、どうにも原因がハッキリしない。

 

「凛華よ。お前は余を支える立場にあるのだ。体調管理くらいできねば困るぞ」

「はい。気をつけます」

 

 姿勢を正して一礼。

 まろみが書類に目を通している間に、次の仕事を終わらせねばならない。

 用意しておいたキャベツを千切りながら、床の上をねっそり歩いているリクガメに近づく。

 

「ほらほら。美味しいキャベツですよ」

 

 表情を緩めて話し掛ける。

 普段の凛華からは想像できない一面だ。

 

 しばらくぼんやりと凛華を見上げていた亀だったが、やがて首を伸ばしてキャベツを食べる。

 

 ふと凛華は思った。

 ここ数日、餌をやっていた覚えがない。誰かが代わりに……。

 

「なにをぼんやりしているのだ?」

 

 まろみの声が思考を遮った。

 

 鈍く痛み出した頭を軽く振って、まろみの方に向き直る。

 

「まだ本調子ではないようだな。今日は帰って休むがいい」

「いえ、大丈夫です」

「これは命令だ。今日はゆっくり休め。お前の身体は、お前一人の物ではないのだぞ」

 

 そう言われてしまうと、反論の余地はない。

 

「お気遣いありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きます」

「ふむ、餌は余がやっておこう」

 

 キャベツを手渡すと、踵を揃えて敬礼。

 きびきびと回れ右すると、そのまま執務室を出た。

 

 ドアが閉まるのを確認し、まろみが大きな溜息を一つ。

 

「まだ完全ではないか。まあいい。一週間ほどの我慢だ」

 

 言い聞かせるように呟く。と、足元を這っている亀に目を落とす。

 

「気持ち悪い。こんな爬虫類のどこがいいのやら」

 

 ブーツで蹴飛ばすと、亀は部屋の隅まで転がった。

 

 

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