《06-02》

                    ※ ※ ※

 

 

 自室でジャージに着替えた凛華が向かったのは函辺の部屋だった。

 

「相変わらず愛想のない部屋ですね」

 

 函辺も部屋を寝室と居間に分けている。

 今、彼女がいるのは寝室の方。簡素なベッドの傍らに腰を下ろしていた。

 

 その言の通り、函辺の部屋はシンプル。

 壁紙は安価な単色で、小物の一つもない。

 アクセントとなっているのは、部屋の隅にある鉄アレイとエキスパンダーくらいだ。

 

「変に飾り立てたら、落ち着かないだろ」

 

 ベッドに横たわった函辺が反論を述べた。声にはいつもほどの覇気がない。

 

「そんなだから、男子に人気がないのです」

「お前に言われたら終わりだよ」

「ふふ、そんな憎まれ口が叩けるなら心配は不要でしたね」

「あったり前だろ。顔さえ怪我してなけりゃ、普通に授業も出たさ」

 

 そう言いながら身体を起こした。

 

 あちこちに激痛が走るが、それを堪えて平気な顔を作る。

 その左頬と額には大きな絆創膏が貼られていた。

 

「まったくわざわざ足を運んだというのに。とんだ無駄足になってしまいましたよ」

 

 微妙な表情の変化を凛華が見逃すはずがない。

 だが、余計な心配を掛けまいと振舞っている親友に、「無理をしないで」とは言わない。

 

「別に見舞いに来てなんて頼んでないだろ」

「感謝を表せとまでは言いませんが、その言い方には失望してしまいますね」

 

 大袈裟に溜息をこぼしてみせる。

 

「階段で転倒したと聞いてますが」

「まあな。顔は擦り傷だけど、肋骨二本にヒビが入った。しばらくは静かにしとけってさ」

「肋骨は骨折。更に左手の薬指と小指にヒビ。両腕両足は擦り傷多数と、重度の打撲が計八箇所」

 

 さらりと言ってのける凛華に、函辺がぽかんと口を開けた。

 

「来る前に調べてきました。心配を掛けたくないという気遣いは理解できますが、そういう嘘が逆に心配に繋がるのです。以後、改めて下さい」

「解ったよ。ガキの頃から、心配性でお節介な親友に苦労させられてるもんでさ」

「奇遇ですね。私も幼少からの親友には気を揉まされっぱなしです」

「お互い友達に恵まれてないんだな」

「残念ながら、そのようです」

 

 ふふっと小さな笑みを交換した。

 

「しかし、それほどの怪我です。休学して入院するべきでは?」

 

 しかるべき施設で最先端の治療を受ければ、骨折くらいなら一週間で完治するはずだ。

 それに対し、学区での自然治癒に頼った旧世紀の方法では一ヶ月は必要になる。

 

「あのさ……」

 

 函辺にしては珍しく言葉を濁らせた。

 

 

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