《08-05》

「念の為、涼城さんが目を覚ましたら事実確認をとっておきます」

 

 付け加えた一言に春乃は悟った。

 凛華ほどの人間が、こんな穴だらけの証言に騙されるはずがない。

 全てを見越した上で嘘を飲んでくれたのだ。

 

「ありがとうございます。凛華さん」

「はて、感謝されるような覚えはありませんが。では次の問題ですね」

 

 函辺の方に視線を移す。

 

「なんだよ」

「小鬼田さん、休学手続きを済ませておきました。明日から十日間、『イルダーナ』の治療施設での入院になります」

「なりますって、なんで勝手に決めてるんだよ」

「役立たずの怪我人を置いておくほど生徒会に余裕はありません」

「解ったよ。にしても酷い言われようだよな」

 

 がっくりと肩を落とす函辺に緩やかな笑いが起こる。

 

「でも、ハコベさんが来てくれなかった危ないところだったよ。ありがとう」

「礼なんて止めろ。友人を助けるのは女として当然なんだからさ」

 

 にっと笑って、サムズアップ。

 

「では、まろみ様。そろそろ面会時間も終わります。戻りましょう」

 

 少し離れて、ぶつぶつと独り言を繰り返していたまろみに凛華が声を掛ける。

 

「む、そうだな。こちらも細かな取り決めが終わったところだ」

「あの、凛華さん、まろみたんのことなんですけど」

「ご安心下さい。どちらのまろみ様も、私にとっては全力でお仕えするお方です」

 

 先回りして凛華が答える。

 

「余なら問題ない。私も頑張るから」

「うん。僕も精一杯手伝うね」

「期待しておるぞ、春乃。ありがとう、春くん」

 

 春乃とまろみ、二人のやり取りに凛華は満足そうに頷いた。

 

 桔梗への背信はいずれ問われる事になるだろう。

 それでも今は、か弱い絶対支配者と頼りなくも強い少年の為に尽くしたい。

 

「それでいいんじゃないか」

 

 内心を見透かしたような函辺に、「そうですね」と端的な言葉を返した。

 

 左手でくいっと眼鏡を上げる。

 

「では、これにて……」

「じゃあ、これにて一件落着ってわけだ」

「もう! どうしていつもいつも邪魔するんですか!」

 

 またしても台詞を取られた凛華が床を踏んで不満の声を上げた。

 

 

                    ※ ※ ※

 

 

「転校生、転校生」

 

 耳元の声に春乃が目を開ける。

 暗闇の中、ベッドの横に人の気配があった。

 

「遅くにすまないね。ボクだ、サトリだよ」

 

 

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