《02-07》
「まろみ様、そろそろお時間になります」
「む、そうか。春乃、今日は朝礼がある。余は行かねばならん。亀の餌を頼みたいのだが」
「うん。解ったよ。任せておいて」
「では、頼んだ。行くぞ、凛華」
未練を切り捨てるように春乃に背を向けると、そのまま部屋を後にする。
「草陰様、キャベツです」
凛華がアブラナ科アブラナ属の多年草であるところの球状野菜を手渡した。
「御形さん、ありがとうございます。色々と気を遣ってもらって」
「いえ、これも任務ですから」
「あ、待ってください」
踵を返した凛華に慌てて声を掛ける。
「なにか?」
首だけを向ける。
冷たい視線に、たじろぎ掛けた春乃だったが。
「まろみたんのこと、これからもよろしくお願いします」
深々と頭を下げた。
「まろみたんは、すごく無理をしていると思うんです。だから、その……」
「貴方に言われるまでもありません。私は今まで全力でまろみ様を支えてきました。そしてこれからもそれは変わりません」
「僕も彼女の為にできることだったらなんでも……」
「本気ですか?」
身体を向けて凛華が睨みつける。
「あの」
「その言葉に偽りがないか、と聞いているのです」
「もちろん、ありません」
「では、今すぐに荷物をまとめて、この学区から去ってください」
「え?」
「まろみ様にとって草陰様の存在は迷惑なのです。学区の支配に、どんな悪影響を及ぼすか解りません」
「でも」
「草陰様が反勢力の手に落ち、人質として交渉材料に使われるという可能性もあります」
昨日の事が春乃の頭をよぎった。
「草陰様がいなくなれば、まろみ様は悲しまれるでしょう。しかし、それは一時だけです。永続的なリスクを抱えることに比べれば、大した問題ではありません」
反論の余地がない意見だ。
「まろみ様には私から上手くお伝えしておきます。今すぐ寮に戻って……」
「ごめんなさい。それはできません」
「どうしてですか?」
「まろみたんが僕のいなくなることを望んでいるなら、僕は直ぐにここを出ます。でも彼女が望んでいないなら。少しでも彼女を悲しませることになるなら、僕にはできません」
「貴方がここに留まることが、この学区で生活する五千人の生徒達に多大な迷惑を掛けることになる。と言ってもですか?」
「はい」
「即答、するとは」
迷いのない春乃の答えに、凛華は驚きを露にする。
「どれほど多くの人に迷惑を掛けようと、です」
「五千人の人間より、たった一人の気持ちを優先すると? そんな非論理的で身勝手な主張が正しいと本気で考えているんですか?」
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