《04-19》

 凛華が小さく頷いて続きを促す。

 

「あの、凛華さんはどうして生徒会に入ったんですか?」

「まろみ様のお役に立てるようにと思ってです」

「じゃあ、生徒会に入る前から、まろみたんとは顔見知りだったんですね?」

「ええ、もちろん、まろみ様と知り合ったのは……確か……」

 

 言葉が途切れた。

 

 やや度の強いレンズの向こうで瞳が虚ろに揺れていた。

 

「凛華さん?」

 

 春乃の声に細い肩がびくんと跳ねた。

 

「失礼しました。ちょっとぼんやりしていたようです」

 

 軽く頭を振りながら答える様子は、函辺やまろみに質問した時と同じだ。

 

「なんのお話だったでしょうか」

「えっと、ライブラリを、その、学校行事の記録を一度見てみたいと思って。実はクラスの話題についていけない時があるんですよ」

「なるほど、仰ることは解ります。ですが」

「何か問題でもあるんですか?」

「ライブラリの閲覧は、ルールで禁止されているのです」

「そっか、ルールじゃ仕方ないですよね」

「申し訳ありませんが……」

「じゃあ、まろみたんにお願いすれば?」

「まろみ様は学区の頂点に立たれているお方です。まろみ様の決定は全てに優先されます。ですので、もちろん閲覧可能なはず」

 

 凛華が首を捻った。

 

「はずなのですが妙ですね。そもそもルールは誰が決めたのか……」

 

 自問しているうちに、凛華の表情に苦痛が混じり始めた。

 

 それに気付いた春乃が慌てて声を出す。

 

「ごめんなさい、急に変な話しちゃって。明日、まろみたんに直接聞いてみます」

「そうして下さると助かります」

「はいよ。洗い物終わったぞ」

 

 凛華が弱々しい笑みで答えるのと同時に、函辺が戻ってきた。

 

「お疲れ様でした。助かりました」

「いやいや、美味しい料理のお礼だよ。じゃあ、草陰、そろそろ帰ろうか」

「うん。そうだね」

「部屋まで送っていってやるよ」

「大丈夫だよ。僕も一応男子だし」

 

 男のプライドがある。

 夜道が危険だからと、女の子に送ってもらうなんてできない。

 

「いや、ダメだ」

 

 そんな見栄を軽く蹴っ飛ばすのが、小鬼田 函辺という人間だ。

 

「お前には黙っていたんだけどな」

「え? なに?」

「今日から桔梗 撫子が戻ってきている」

 

 先週の騒ぎの後、病院に運ばれたと春乃は聞いていた。

 

「そう、だったんだ」

「だから、『ハルベルデ』が仕掛けてくる可能性が……」

「良かった。酷い怪我じゃなかったんだ。本当に良かった」

 

 良かったを繰り返す春乃に、

 

「草陰、お前って底抜けにお人好しだな」

「春乃様らしいと言えば、らしいですけどね」

 

 それぞれが呆れと好意を適度にブレンドしたコメントを口にした。

 

 

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