《05-01》
【5】
翌日、放課後。
リクガメの給餌を終えた春乃が、凛華に話した通りまろみに尋ねてみた。
「ふむ、ライブラリの閲覧な」
デスクに座るまろみはか細い腕を組んで、ふうっと大きく息をこぼす。
「許可してやりたいところだが、ルールで禁止されているのだ」
「それは解ってるんだけど」
「まろみ様、春乃様は転校生です。この学区に慣れて頂く為に、記録を見ることは非常に有益だと思われます」
思いがけない凛華の支援に感謝しつつ春乃は続ける。
「僕も早くこの学区に慣れて、少しでもできることをしたいんだ」
サトリの言がどこまで確かなのかは解らない。だが、漠然とした不安を感じる。
この歪な世界が、安っぽい舞台劇のような世界が、いずれまろみに大きな災厄を招くのではないかと。
「ふむ、その気持ちは嬉しいのだがな。しかしルールは……」
まろみが言葉を止めた。ある可能性に行き着いたのである。
「この学区の歴史は余の歴史とも言える。それを見れば春乃は余の素晴らしさ、偉大さに感服するに違いない。そして、そして」
ぶつぶつと呟くまろみの表情が次第に緩んでいく。
「あの、まろみたん」
「いや、なんでもないぞ」
わざとらしく咳払いをしながら、緩みきっていた顔を戻す。
「解った。他ならぬ春乃の頼みだからな。特別に、いいか、特別にだぞ。許可してやろう」
「うん、ありがとう」
「流石はまろみ様。英断です」
ちらりと時計に目をやった。
針はそろそろ十七時、楽しい時間は終わりだ。
「まろみ様、本日の生徒会活動ですが、各委員の業務報告だけとなっています。特に早急な懸案もありません。ですから……」
「凛華よ。お前の気遣いは嬉しい。だが、余は学区の支配者。立場はわきまえておる」
そう告げると、豪華な椅子から立ち上がる。
「春乃、悪いがライブラリの件は後日にしてくれ」
「うん。解ったよ」
「お待ちください、まろみ様」
「凛華、控えよ」
言葉を飲み込みかけた凛華だが、逆に胸を張って半歩近づいた。
「無礼を承知で進言させて頂きます。今日のように懸案のない日は滅多にありません。貴重な時間をご自身の為にお使い下さるようお願い致します」
「しかしな」
「もし私に任せるのが不安というのであれば、私はまろみ様を支えるに値しない人材であるということ。この場で……」
「もういい。解った」
大袈裟に溜息をついた。
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