《05-02》

「今日はお前に任せよう」

「はい。ありがとうございます」

 

 頭下げる凛華に、まろみが優しい表情を見せる。

 

「余は御形 凛華という人間に全幅の信頼を置いておる。例え冗談であっても、自分を卑下するような発言をするな。これは余たっての願いだ」

「勿体無いお言葉、胸の奥にしまっておきます」

「ふむ、では頼んだぞ。春乃、聞いた通りだ。時間が出来た。ライブラリに向かうぞ」

「あ、うん」

「では行ってらっしゃいませ」

 

 凛華に見送られて、二人揃って部屋を出る。

 

 ドアが閉まったのを確認して、凛華がレシーバーを取り出した。

 

「今、二人が出ました。後はよろしくお願いします」

 

 

                    ※ ※ ※

 

 

「だから、余は言ってやったのだ。イモリは両生類、ヤモリは爬虫類だとな。それを聞いたそやつの顔が、まるで尻尾を切られたトカゲみたいになってな」

「あはは。きっと凄いショックだったんだよね」

 

 他愛ない会話をしながら通用門を潜る。

 そこでまろみが足を止め、振り返った。

 差し込む夕日に輝く校舎は、力強い存在に見える。

 

「春乃、お前はこの学区が好きか?」

「うん。いいところだと思うよ」

「そうか」

 

 しばしの間を置いて、まろみが再び口を開く。

 

「お前にも苦労を掛けている。すまんな」

「え?」

「余と親しいというだけで大半の生徒は、いや教官ですら距離を取りたがるであろ」

「うん。少し距離を置かれているかな。でも、まろみたんとは関係ないよ。向こうが近づかないなら、こっちから近づけばいいんだしね。時間は掛かるけど、大丈夫だよ」

 

 優しい笑みで、「それにちゃんと友人として接してくれる人もいるんだよ」と継ぎ足す。

 

「春乃は強いな」

「そんなことないよ。非力だし、授業についていくのが精一杯だし」

「腕力や知力など、いくら強くてもしれておる。真の強さとは心の強さ。常に人に優しく、いつも笑顔でいることだ」

「まろみたん、その言葉って」

「ただの受け売りだ。誰に聞いたか、どこぞで読んだのかは覚えておらん。ただ、ずっと心に残っている。いい言葉であろ」

「うん。そうだね」

「つまらぬ話をしてしまったな。ライブラリに急ごう」

 

 歩き出したまろみの隣に春乃が並んだ。

 

 

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