《04-18》

「このお粥はどうにもできないので、適当なオカズを作ります」

「あ、僕がやりますよ。凛華さんは体調が悪いんだし」

「春乃様、料理がお得意なのですか?」

「いや、そういうわけじゃないですけど」

「では、お任せください。これ以上、個性的な料理を食べさせられては精神が持ちません」

 

 

                    ※ ※ ※

 

 

 凛華の腕は大した物であった。

 三十分ほどの時間で、焼き魚にダシ巻き。鶏の照り焼きにキャベツの千切りまで揃えた。

 味はどれも美味しく、出来合いのオカズばかりだった春乃にとっては、天の恵みとも思えるほど。

 だが、その凛華の技量を持ってしても、圧倒的戦力差を覆すには至らなかった。

 

 ゆったり歓談しながら一時間。

 オカズを全て平らげて、なんとなく三人の箸が止まった。

 

「そろそろ辛くなってきたな」

「僕もちょっと限界かな」

「私もこれ以上は無理です」

 

 鍋のお粥はまだ七割以上残っている。

 

「まあ、ここまで減ったら十分だろ。残った分は、凛華が数日掛けて食べれば」

「解りました。明日からのお弁当はお粥にします」

「うそうそ、冗談だよ。しょうがない。明日も頑張るか、三人で」

「え? 僕も?」

「当たり前だろ。連帯責任なんだから」

「ご安心ください。私が味付けを直しておきます。少なくとも食べられるレベルに」

「その言い方だと、自分が食べられない物を作ったみたいに聞こえるじゃないか」

「明日のお弁当にしますよ」

「すいません。自分が悪うございました」

 

 両手を突き出して、机の上に突っ伏す。

 土下座をコミカルな仕草にした物だろう。

 

「それにしても少し食べ過ぎました。動くのが億劫です」

 

 お腹をさする凛華を見て、函辺が腰を上げた。

 

「しょうがないな。片付けくらいしてやるよ」

「あ、僕も手伝うよ」

「いいよ。困るほどの量でもないし。ゆっくり休んでな」

 

 続いて立とうとする春乃を制し、手際良く皿をまとめてキッチンに運ぶ。

 

 程なくして水道の音と機嫌良さそうな鼻歌が聞こえてきた。

 

「で、春乃様。私に何か用があるのでは?」

 

 凛華が左手でくいっと眼鏡を上げた。

 

「どうしてですか?」

「春乃様は用もなく女子の部屋に留まったりしない人間です。小鬼田さんに調理を任せて、私が目を覚ますのを待っていたのは、何か用件があったのだろうと推測できます」

 

 凛華の言葉に、春乃が表情を緩めた。

 

「流石は凛華さん、その通りです。実は聞きたいことがあるんです」

 

 

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