《02-03》

「ボクは、サトリ。もちろん、本名じゃないよ」

「変わったあだ名だね。で、僕に何の用?」

「ふふ、名乗りもしない相手に用件を問うのかい? 転校生、君は本当に変わってる」

「サトリ君って言ったね。君は僕を知っているんだよね」

「もちろんさ。それもかなり前からね」

「もし、僕に危害を加えるつもりなら、不意を衝くことができた。でも、しなかった。だから、とりあえずは安心かなって」

「なるほど、理に適ってる。君は冷静に物事を判断できる人間のようだ。そして基本的に人を信じる善人でもある」

 

 一人満足そうに頷くと、言葉を続ける。

 

「ボクの用件だったね。転校生、君と話してみたかったんだ。君という人間を知りたくてね。どうやら、ボクが思ってた以上に期待できそうだ」

「期待ってなんの? 僕に何かをさせたいってこと?」

「今じゃないよ。ただね、転校生、君がカウンターになり得ることは確信できた」

 

 カウンターと言う単語が、春乃の中にある可能性を生む。

 それは学区の支配者を自称する少女にとって、影響のある物ではないかという事だ。

 

「大丈夫、少なくとも危害を加える気はないから」

「そんな言葉で納得できないよ!」

 

 珍しく声を荒げた春乃に、サトリと名乗った少年は臆する様子を微塵も見せなかった。

 

「言い方が不十分だったようだ。ボクは君とまろみの味方だよ。君達に絶対に危害を加えない。約束する」

 

 しばらくの沈黙。

 

 根負けした春乃がふうっと息をついた。

 

「ごめん、怒鳴っちゃって」

「いや、いいよ。名乗りすらしない人間の言葉だからね」

「そういうわけじゃないけど」

「ところで転校生、君、頭痛が酷くないか?」

「少しね。あまり寝付けなかったみたいなんだ」

「だと思ったよ。これを身につけておくといい」

 

 サトリが差し出したのは、細いチェーンのネックレスだった。

 一センチほどの八角形の台座に、淡い緑の石が乗っている。

 

「これは?」

「ただのお守りさ。ご利益は安眠、ってことにしておこう」

「変わったお守りだね。確かにゆっくり眠りたいところだけど」

 

 口元に笑みを浮かべながら、春乃は小さく首を振った。

 

「随分と高価そうだし。初対面の人にこんな物を貰うのは……」

「これがまろみと君の絆を守ってくれると言ってもかい?」

 

 思いもよらない一言に、春乃の言葉が途切れる。

 

「君とまろみの想いは強い。でもね、どんなに強い想いですら壊す力が世の中にはあるんだ。ボクを信じられなくてもいい。これだけは肌身離さず持っていて欲しい」

 

 そう言いながら眼鏡を外す。切れ長の鋭い目が現れた。

 

 冷たく澄み切った瞳が、疑心に満ちた春乃の視線を受け止める。

 

 

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