絶対支配! まろみたん!
紅子 縁璃
《01-01》
【1】
分厚い金属のゲートをくぐった。
目の前に続くアスファルトで舗装された道。
頭上からは柔らかな朝の光が降り注いでいる。
頬を撫でるのは十月の優しい風。
微かに鳥の鳴き声まで聞こえてくる。
「話には聞いていたけど……凄い」
草陰 春乃(くさかげ はるの)は思わず感嘆を漏らす。
春乃は一言で表すなら、純血草食系の少年だ。
穏やかな二重の瞳と、実に平凡な鼻口。
パーツパーツは決して素晴らしい物ではないが、バランス良く並んでいて好感の持てる顔つきをしている。
背は平均より少し高いが、細身で体力的に心許ない感じがする。
「あの、どうして建物の大きさが違うんですか?」
視線の向こうに並ぶビルを指差しながら、案内してくれた若い女性係員に尋ねた。
シンプルなシャツと膝上のタイトスカートという制服に身を包んだ彼女は、微笑みを崩さず答える。
「この時代の建造物は高さを画一化せずに建てられていました。一説によると、当時の市民達は自分達の住む街を、一つの芸術作品として捉えていたようです」
「つまり、あの建物の描く高低も装飾の一つだったということなんですね?」
「はい。初めて目にする方の中には、落ち着かないと言われる方もいらっしゃいますが」
「僕は好きですね」
意外な感想だったのだろう。
女性は僅かに驚きを浮かべた。
「なんて言うんだろ。今と違う、精神的な余裕みたいなのを感じるんですよ」
「なるほど。そうかも知れませんね」
「あ、ごめんなさい。変なこと聞いて。お忙しいのに」
「いえいえ」
言いながら、右手に提げていた大ぶりのトラベラーバックを春乃の足元に置いた。
「では、私がご案内するのはここまでです」
そう告げると、半歩下がり踵を揃えた。
それを見て春乃も慌てて姿勢を正す。
「つま先が開きすぎです。少し狭めて。左手、指先まで伸ばして。はい、そうです」
細かく指摘した後、係員は右手を額に当てて敬礼した。
「ここでの生活が素晴らしい物になるよう祈っています」
春乃も敬礼を返す。
「はい。ありがとうございました。その、荷物まで持って頂いて」
「男の子なんだからさ。そんくらいの荷物、楽々持てるようになんないとダメよ」
敬礼を崩すと、途端に砕けた口調でそう言った。
彼女にとっては先程の挨拶をもって、任務完了という事なのだろう。
その切り替えの鮮やかさに、春乃は好意的な気分になる。
「そう言われると辛いですね。あまり体力に自信がなくて」
「その制服、十一学区よね」
「はい」
春乃の格好はモスグリーンのブレザーにグレーのボトム。
タイはガーネットピンクの菱形パーツが付いたループタイ。
靴は黒に近い濃紺の紐付き。
これから彼が通う十一学区の制服だ。
「あそこ、陸軍でしょ。私も似たような学区だったけど。訓練辛いよ。大丈夫? ただでさえ、転入生って不利なんだし」
「主計科だから、なんとかなるかなって思ってます。ちょっと楽天的ですかね」
「確かに主計科は座学が多いけど。でもさ」
腕組みをしながら、その瞳を覗き込む。
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