《07-09》

  

                    ※ ※ ※

 

 

 そして一日が過ぎた。

 

 放課後の臨時集会。全校生徒の居並ぶグラウンド。

 

 指揮台に立ったまろみは、マントを大きく振り払ってこう告げた。

 

「ただいまより二時間、戦闘行為の禁止を解除する」

 

 唐突な宣言に、五千人の生徒達は少なからず動揺を見せる。

 

「案ずるな。この二時間で第十一学区は生まれ変わるのだ。より素晴らしく、より美しい形に。余の言葉を信じよ! 余の言葉に従え! そして余を讃えるのだ!」

「偉大なるまろみ様に栄光あれ!」

 

 叫びが上がるのと同時だった。いきなり火薬音が鳴り響いたのだ。

 間髪入れず赤い煙がグラウンドの隅で派手に吹き上がった。

 

 事態を飲み込めずに固まる生徒達を急き立てるように、破裂音と煙が次々と起こる。

 

「敵襲だ! 敵襲! 火だ! 火が点いた!」

 

 悲鳴と怒声、更に火薬と煙。生徒達は瞬く間にパニックに陥った。

 

「なんだ! 何が起こっているのだ!」

「まろみ様、敵襲です!」

「て、敵襲だと! 武装風紀委員は! 何をしている! こんな時に余を護るのが奴らの役目だろうが!」

「武装風紀委員は寮に向かっております」

「くっ! なら早く戻せばいいであろうが!」

「しかし、この混乱では命令伝達も難しく」

「もういい! 役立たずが!」

 

 乱暴に吐き捨てると、

 

「お前ら静まらぬか!」

 

 握っていたマイクに懸命に怒鳴った。

 しかし、その叫びは自身の物以上にはならない。

 

「どういうことだ! どういうことなのだ!」

 

 当惑するまろみ。

 漠然とだか奇妙な感触がある。だが、その直感が明確な形になる前に、事態は一歩進んだ。

 

「静まれ。静まるのだ」

 

 不意にスピーカーから声が流れたのだ。

 

 誰もが一瞬にして黙り込む。

 

「この程度で取り乱しおって。それでもお前らは第十一学区の生徒なのか、余の僕なのか。情けないにもほどがあるぞ」

 

 声の主、いや、第十一学区の主たる者の姿を求め、生徒達が慌しく視線を走らせる。

 

 全員の目が止まった。

 軍服姿のまろみが呆然と立ち尽くす指揮台。

 そこに一段一段踏みしめながら、上がりくる制服姿の小柄な少女に。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る