《07-27》

 数十秒のじっとりとした沈黙の後、鈴奈が大きく息をついた。

 

「いつ気付いたのです?」 

「実は全然気付いてませんでした。正直逃げ切られたと思ったんです。でも、まだこの校舎に残っているかもしれない。その可能性に掛けて、今から校舎内で会う人間には同じことを聞くつもりでした」

「わたくしの勇み足というわけですか。こんな初歩的な手に引っ掛かってしまうなんて」

 

 いつもの愛くるしい物ではない自嘲の混じった笑みを浮かべた。

 

「涼城さん、どうしてまろみたんを選んだんですか?」

「それはまろみ様を愛しているからです」

「愛って、女の子同士じゃないですか」

「ふふ、人を愛する気持ちに性別なんて関係ないんですよ」

 

 きっぱりと断言した。

 

「草陰様、まろみ様がどうしてこの学区を選ばれたと思われます?」

 

 まろみがこの第十一学区を選んだ訳を、春乃は知らない。

 

「たった一人の幼馴染の為です。その方と同じ路を歩きたい。まろみ様がこの学区を選ばれた理由はそれだけです」

「まさか、その幼馴染って」

「草陰様、貴方のことです」

 

 ヒーローに憧れていた春乃。

 子供の頃の夢は怪獣から世界を護るヒーローだった。

 まろみにも話した事がある。

 その夢は軍人になって、大切な人達を護るという物に変わっていった。

 

「体格に恵まれないまろみ様にとって、ここのカリキュラムは楽な物ではありませんでした。だから、まろみ様は人知れず努力を重ねたのです。放課後、残ってランニングをしたり、自室で基礎トレーニングをしたり。それだけではありません。座学についても夜遅くまで参考書を開いておられました。自由な時間なんて欠片もない。それなのに泣き言一つ口にせず、それどころか笑顔で人に優しく接することを心掛けておられました。再び会えるとも知れぬ相手を想い、ひたすらに時間を重ねる。そんなまろみ様に心惹かれるのは、人として当然のことです」

 

 話す内に鈴奈の陶酔した顔に変わっていく。

 

「だから、わたくしは決めたのです。この学区を、この世界をまろみ様に相応しい物にしようと。そして、お側に仕え、共に歩んでいこうと」

「でも、それはまろみたんが望んだことではないですよね」

「まろみ様もわたくしの心を知れば、きっと喜んで下さいます」

「涼城さんの気持ち、まろみたんを想ってくれる気持ちはとても嬉しいです。でも、まろみたんはこんなことを決して望んだりしない。それくらい解りますよね」

「なら、望むようにすればいいのです」

 

 

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