《07-28》

「どういう意味ですか、それ」

「わたくしは内気でただ努力を重ねるだけの弱々しい少女を、誰よりも輝く絶対支配者に変えました。どんな人間だって、どんな気持ちだって……」

「そんなの間違ってます! 人の心を勝手に歪めるなんて、絶対に間違ってる!」

 

 声を荒げる春乃に、鈴奈が小さく首を振った。

 

「何故解らないのです? わたくしが作り上げた儚くも美しい世界。破滅が約束された綺麗で澄んだ世界。この素晴らしさが何故理解できないのです?」

「破滅が約束された世界? それってどういう意味なんですか!」

「この世界の行く末は決まっているのです」

 

 落ち着いた声で鈴奈が告げた。

 

「絶対支配者まろみ様は数年の時を掛け、ゆっくりと変わっていくのです。生徒達を第一に考える聖人君主から、権力に溺れる暴君にと。そして卒業が迫ったある日、『ハルベルデ』を中心とした反勢力が立ち上がるのです。武装風紀委員は圧倒的な暴力の前に敗れ、信頼する副官は主を見限り去ってしまう。そしてまろみ様は知るのです。その反乱軍を指揮しているのが」

 

 ほっそりとした指を春乃に向けた。

 

「幼馴染で最愛の人である草陰 春乃であると」

「僕がまろみたんを裏切るなんて、絶対に有り得ない!」

「いえ、そうなります。わたくしがそういう役を与えるのですから」

 

 事も無げな言い方に、春乃の背筋が凍る。

 

「追い込まれたまろみ様は己の命を絶つことを選ぶのです。最後まで自分につき従ったわたくしに、全ての想いを託して」

「そんな」

「そして残されたわたくしは、まろみ様の想いをずっと胸に抱き、悲しみに暮れながらも生き続けるのです。悲劇のヒロインとして!」

「狂ってる! 狂ってるよ! そんなの!」

「そうです。狂おしいほど愛しているのです。まろみ様を」

「違う! 自分が悲劇に酔いたいだけじゃないか! そんな身勝手な妄想に、まろみたんや学区のみんなを巻き込む権利なんてない!」

 

 春乃の怒声を鈴奈が満面の笑みで受け止める。

 その自己陶酔に染まり切った表情は、どんな言葉も届かない事を雄弁に語っていた。

 

「しかし、誤算がありました。まさか、草陰様が猟犬だったとは」

 

 猟犬。再び出た単語に春乃が眉をひそませる。

 

「何の話ですか?」

「裏切り者であるわたくしを始末しに来たのでしょう」

「何を言ってるんですか!」

「残念ですが、草陰様にはここで死んで頂くことになりました」

 

 隠していたハンマーを構えた。

 

 

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