《06-07》

 出掛けた言葉を慌てて飲み込んだ。口にしてはいけない問いだ。

 春乃の答えは決まっている。

 それを聞けば自分は感情的な言葉をぶつけてしまうだろう。

 望む答えを引き出す為だけに。

 それは春乃を苦しめるだけだし、何よりもう一人の自分に対し卑怯な気がした。

 

「どうしたの?」

「ううん。お守りのお陰かな。ちょっと眠くなってきたんだ」

 

 嘘ではない。

 頭痛も随分と治まってきた。今なら眠れそうだ。

 

「じゃあ、少し眠った方がいいと思うよ」

「うん。そうするね」

「まろみたんが眠っている間に、抜け出す方法がないか調べておくから」

「うん。八年ぶりの再会なのに、壁を挟んで顔も見られないなんて悲し過ぎるもんね」

「そうだよね。劇的な再会を期待してたわけじゃないけど、これは余りに酷い趣向だよ」

「ある意味では劇的って言えるかもだけど」

 

 他愛ない冗談で、もう一度見えない笑顔を交換した。

 

 

                    ※ ※ ※

 

 

「貴方がサトリ?」

「そう、ボクがサトリだ」

「姿を見せるとは、いい度胸じゃないか」

 

 獰猛な笑みを見せる函辺を、凛華が小さく手を挙げて制した。

 

「その主張を信じろと言われても困りますね」

 

 言葉を揺らしながら、それでも油断なくサトリの様子を窺う。

 

「そう言われると思ってね。証明できそうな物を用意してきたよ」

 

 二つ折りしたメモ用紙を差し出した。

 

 凛華が受け取って広げる。

 書かれていたのはコンマ区切りで並んだ五つの数値だった。

 

「こ、これは」

 

 冷静な凛華の顔が凍りつく。

 細い目がぐぐっと三倍に肥大化した。

 

「副官さんは、良く知っている数だよね」

「一体コレをどこで」

 

 動揺する凛華に、函辺が覗き込む。

 その数値の持つ意味にすぐさま気付いた。

 

「これは凛華の身長体重とスリーサイズ!」

「言葉にしなくていいんです!」

「夏休み明けにあった身体測定のデータを拝借してきたんだ。これで証明になるかな」

「生徒の個人情報は厳重に管理されているはずなのに」

 

 左手で眼鏡をくいっと上げ、冷静さを取り繕う。

 

「驚きましたよ」

「あぁ、確かに驚きだ」

 

 函辺が言葉を引き継ぐ。

 

「夏休み前より体重が増えているのに、バストが小さくなっているなんて」

「そんなのはどうでもいいんです!」

 

 顔を真っ赤にして怒鳴った。

  

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