《06-08》

「風紀委員長さんのデータも取ってあるけど」

 

 取り出したメモを、凛華が無言で受け取る。

 

「お前が受け取ってどうすんだよ」

 

 函辺の抗議を意に介さず、そのまま広げた。

 

「む。また大きくなって……」

「成長期だからな。体重は減ってるけど」

「くっ、下品な」

 

 乱暴に破り捨てる。

 

「なにが下品なんだよ。魅力的って言うんだろっが」

「人間としての魅力は乳の大きさではなく知性です」

「なんの悔し紛れだよ、それ」

「く、悔し紛れなんかじゃありません! 私は人類文化の……」

「悪いけど、じゃれ合うのは後にしてくれないかな」

 

 心底呆れた口調でサトリが割り込んだ。

 

「そうでしたね。本物のサトリだと認めましょう。となれば、私達がどう反応するかはご存知ですね」

 

 どこから出したのか折り畳み式のナイフを、サトリの喉元に突きつける。

 

「ボクは君達に敵視されているからね。こうなることは予測できたよ。でも他に選択肢はなかったんだ」

「どういう意味です?」

「シンプルに言うよ。君達の力を貸して欲しい。まろみ達を助けるために」

「まろみ様を助けるだって? 助けを求めるべきはお前の方じゃないのか?」

 

 函辺が不敵な表情で告げる。

 

「小鬼田さん、待ってください」

 

 くいっと眼鏡を上げた。分厚いレンズがキラリと光を反射する。

 

「サトリさん、貴方は気になることを言いました。まろみ様達を助けて欲しいと、達とはどういう意味ですか?」

「聞いたままだよ。まろみと一緒にもう一人、危機的状況に陥っている人間がいる」

「話が見えないですね。というより、あえて焦点をぼかして話しておられますね」

「さあ、それはどうだろう」

 

 大袈裟に肩を竦めてみせた。

 

「とりあえず、立ち話もなんだし。部屋に入れてくれないかな」

「面識のない人間を部屋に入れるとでも思っているのですか?」

「もちろん入れてもらえるはずはない。相手が男子となればなおさら、ね」

「で、あれば……」

「逆に言えば、気心の知れた親しい人間だから君の部屋に入ったんだろうね」

 

 はっと函辺が息を飲む。

 凛華の顔にも動揺の色が浮かんだ。

 

「そんな親しい人間を忘れたりするだろうか。たった二日間で」

「凛華」

 

 不安そうな視線を向ける函辺に小さく頷いた。

 

「どうやら、私達が落としてしまった物をお持ちのようですね」

 

 ナイフを折り畳むとジャージの袖口に滑り込ませる。

 それを見て函辺も警戒を解いた。

 

 

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