《06-09》

「物騒な物を隠し持ってるんだね。君に声を掛ける男子は、勇気が必要になりそうだ」

「立ち話もなんです。中に入られたらどうですか?」

 

 軽口を流すと、身体をずらして道を開けた。

 

「そうさせてもらうよ。女子の部屋に入るのは気を遣うけど、遠慮している場合ではないから」

「ではどうぞ。女子の部屋に妄想を抱いているとしたら、それには沿えないガッカリな部屋ですが」

「失礼な言い方するなよ」

 

 じとっと睨みつける函辺の指摘を、やはり無言でスルーしてドアを閉めた。

 

 

                    ※ ※ ※

 

 

 寝室と同じ単色の壁紙。シンプルなデザインの座卓。

 部屋の隅に無造作に詰まれている漫画雑誌。

 本当に愛想のない居間だった。

 

「単刀直入に伺いましょう」

 

 座ると同時に凛華が切り出した。

 

「生徒会に敵対している貴方が、まろみ様を助けたいとはどういうことですか?」

「まず前提が間違っているね。ボクは生徒会に敵対する気はないよ」

「嘘をつくな! お前に潰されたプランだってあるんだぞ!」

 

 しれっと答えるサトリに、つい声が荒くなる函辺。

 

「そうだね。映画鑑賞やディベート大会、それに演劇部の発表会も邪魔をさせてもらった。多くの生徒を閉鎖空間に押し込めて行うイベントは、止めてもらうことにしてるんだ」

「そういうイベントには、邪魔をしなければならない理由があるということですね」

「さあ、どうだろう?」

「つまり答える気はないと?」

 

 はぐらかす言い方に、凛華が不快感を露にする。

 

「そんな顔をしないで欲しいな。その件については、今回のこととはあまり関係ないからね。話したくないんだよ」

「お前の都合なんてどうでもいいんだよ。なんなら力づくで……」

「小鬼田さん、私が話しますので黙っていて下さい」

 

 容赦のない言い方に、函辺がしぶしぶ続きを飲み込んだ。

 なかなか腹に落ちないのだろう。頬をぷっと膨らましている。

 

 解りやすい反応に溜息をこぼすと、凛華はサトリに顔を戻した。

 

「本意ではありませんが、まず貴方の話を聞きましょう」

「そうしてくれると助かるよ。今から言うことは、荒唐無稽な話に感じてしまうだろう。でも、敢えてボクはそこから始めようと思う」

 

 言葉を止めて、凛華と函辺を交互に見やる。

 

 その無言の問いに、二人が頷いて続きを促した。

 

「今、この学区に君臨している菜綱 まろみは偽者だ」

 

 

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