《06-10》
しばしの間があった。
サトリの発言を理解する為の僅かな時間。
まず答えたのは函辺。
あからさまに呆れた表情で、である。
「何を言うかと思えばくっだらない。嘘ならもちっとマシな嘘をつくもんだ」
「副官さんはどうかな?」
「まろみ様が偽者として、その先を聞かせて頂きましょう」
「本物のまろみは偽者に捕らえられている」
「そこにもう一人捕らえられていると。一昨日、私の部屋で夕食をご一緒した男子が」
「その通りだよ。流石だね」
「今までのヒントを組み上げただけです。しかし、まろみ様についても、捕らえられているという男子についても客観的に証明できる材料がありますか?」
「ないよ。残念なことにね」
「では、貴方の話を信じることはできません」
「客観的に証明できなくても、主観的な疑問は残るだろう」
「それは……」
凛華の歯切れが悪くなる。
放課後の執務室で覚えた違和感。
欠落している一昨日の記憶。
「その疑問を解決してあげるよ。君達の記憶は改竄されているんだ。偽者のまろみにとって都合のいいようにね」
「そんなバカなことが……」
思わず漏らす函辺に、サトリは優しく続ける。
「正確に言うならば、この学区の全ての生徒が記憶を改竄されている。そして決められた役職を演じさせられているんだ。まるで舞台劇のようにね」
「そんな話を信じろと?」
「信じられるはずがないだろっが」
「気持ちは解る。記憶というのは人の根幹を成すもの。それを改竄できるなんて有り得ない。いや、有り得ないと思いたい。でも、現実は残酷だ。現に君達は親しい友人の顔はおろか名前すら思い出せなくなっている」
サトリの説明に、二人は言葉を失くしてしまう。
「もちろん、記憶の改竄は容易なことじゃない。無理な記憶を短期間で強引に刷り込む場合は特にね。だから、君達は違和感を持っているんだ。何かがおかしい。どこかが奇妙だとね」
「待ってください。短期間で、ということは時間を掛ければ……」
「時間さえ掛ければ、どんな記憶でも刷り込める。今、君達の中にある違和感も、時と共に薄れて消えていく」
「それに必要な時間というのは?」
「一週間もあれば十分だよ」
「まさか。そんな短い時間で」
ごくりと凛華が喉を鳴らした。
「自分には難しいことは理解できない。だからバカな質問をさせてもらいたい」
「どうぞ。ボクで答えられることならね」
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